第18話 約束だってさ

 バスを降りると、目的地はすぐに見ることが出来た。ココロから聞いていた通り、真っ白い壁の四角い建物だった。

 けど、それ以外に言うことがない。違うな、言えることがない。

「ココロ?」

「ん?」

「バスってここまで?」

 答えが半分分かってる質問をする。

「そうだよ?」

 なるほどな。

「ココロ言ってたよね?バス停から10分でいつも言ってるよって。」

「言ったね〜」

「あれ、どう見ても10分じゃつかなくない?」

 僕は小さい山みたいになってる地形のてっぺん、つまりほぼ一本道の坂の上を指さす。そこに白い建物、病院があるのだ。

 どのくらいの距離か目測で測ろうとする。

 うん。病院の窓が豆粒に見えるくらい遠い。これは、遠い。

「そりゃそうだよ。だって、いつもは車であそこまで行ってるんだもん」

「え…」

「誰も徒歩10分なんて言ってないよ〜」

 当たり前だと言わんばかりに首を傾げる。あー、いつものパターンだ。

 そう、屁理屈だ…あの時、承諾した時しっかりとココロの性格を考えておくべきだった。もはや顔に出るレベル。

「…ごめんね、騙すみたいになっちゃって。こうでもしないと来てくれないかと思って…どうしても、お母さんにあって欲しかったから。」

 隣にいたココロが急に静かな話し方になったので、ふと顔を向ける。

 少し俯いて、ちょっと幼さの残る顔。ココロってこんな顔してたっけ。やっぱり、お母さんに関わった事だとココロがココロじゃ無くなる気がする、僕はなんて失礼な事を考えていたのか。

「いや、いいんだけどさ。僕、体力ないから」

 弁解の言葉など、しっかりと思いつかない。これで、少しでも反省の意が伝わっただろうか。

「そっか、なら良かった。行こ」

 あれ…?

 ニコニコとしたいつもの顔。もしかして…演技?

 でも、どこから?あれ?

 やっぱり。ココロって、ココロなんだ。いい意味でも、悪い意味でも。

 いやいやな態度で、でも内心ほっとして。

 両手を開いてどっかのミュージックビデオみたいに歩いているココロについて行く。

「徒歩だとどのくらいかな」

「わかんなーい、初めてだから〜」

 どこの青春ドラマだろうか。そんな雰囲気だった。

 

 ココロが、ゆっくりと扉を開く。ほとんど音を立てずにスライドした板の向こうには、ひとつのベットが置いてあった。

 何も言わず、ココロがゆっくりとベットに近づいていく。僕も、1歩遅れてそれに従う。

 そこには、ココロに似ている美しい女性がいた。

 言っておこう。これは比喩だ。

 悲しいけど、比喩なんだ。

 

 いつの間にか、ココロが僕の袖を掴んでいた。いつもならからかってやりたくなるけど。今日に限って、僕はこの状態をそのままにしておいた。

 

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