第17話 知らないを知る感覚3

 僕は計画通り、約束の時間の10分前にコンビニに入った。

 もう、段々と日差しが鬱陶しくなってくる季節になってきている。おかげで、コンビニの冷房を拝みたくなってくる程だ。お菓子コーナーで自分用にガムを選び、レジに持っていく。そして、あんなの買う人いるのかよ。と、いつもなら思う贈り物のお菓子を店員に注文した。

 値段、なんと1500円。欲しかった小説をひとつ諦める決意をして、野口英世2人分を手放した。これも仕方の無いことであるし、礼儀である。ココロの母親に、病人に逢いに行くのだ。お見舞いの品ぐらい持っていくべきであろう。

 見慣れないコンビニの紙袋を手にさげて、コンビニから出る。

 すると、ちょうどココロがやってきているところだった。制服であるいつもとはだいぶ印象が変わる。白を基調として、夏らしい水色がちりばめられたワンピース。それに対応するような青色のひもを使ったサンダルに、胸元で光る蝶を型どったネックレス。そしてなんといっても、普段はポニーテールのまとめられている髪が下ろされていて、少しカールがかかっていることで僕の目を引いた。思わず見入ってしまう。

 服装等は子供らしい雰囲気なのに、いつもよりも大人らしく見えるのが不思議だ。ぼーっとしている僕に気づいた彼女は、足早によってきて

「ちょっと飲み物買ってくるから待ってて」

 と、声をかける暇もなくさっさとコンビニに入って行ってしまった。

 5分もしないうちに出てきて、僕の頬に缶コーヒーを押し付けてきた。

「熱っ!?」

 予想もしなかった衝撃に、2歩ほど後ずさって転びそうになる。

 寸でのところでココロに腕を引っ張られて、ごめんごめんと謝られた。

「いやぁ、ミライくん。家でエアコンという文明の力に頼りっきりだっただろうなと思ってね。ちょっと、免疫を高めてあげようと」

「熱いコーヒー入った缶を押し付けて免疫上ったら予防接種なんてないよ!」

 しっかりとツッコミを入れて、缶コーヒーを受け取る。指先がジンジンと熱くなって、網を触ってるみたいな感覚になる。

 やっぱり、ココロのからかい方がちょっと空回ってる。そんな印象を受けた。

 

 何とかコーヒーを飲みきった僕は、フルマラソン走ったあとみたいに汗だくになっていて、それをみたココロがまたケラケラと笑って来た。

 もう一度2人でコンビニに入って、汗が完璧に引くまで涼んだ後に出発する。ココロの話を聞く限り、ここからはバスで移動するらしい。コンビニから大体400メートルほど歩いた場所にあるバス停に移動した。

「どこまで乗るの?」

 ほとんどバスに乗らない僕がバス停名を聞いても分からないかもしれないが、何か教えてくれるはずだ。

「ここから20分くらいのところにある、中央病院前バス停ってとこまで乗るよ。」

 まもなくして、やってきたバスに乗り込み一番後ろの席に二人で座る。

 病院前がバス停になっているなどよくある話だ。家から近いという理由でこの病院を選んだのだろう。

 一番近い入院できる病院がバスで20分かかるというのが、僕らの住んでいる場所の活気のなさを表してしまっている。

 そんな活気のない街の風景が過ぎ去っていく窓。特に宇することもなく眺めていると、唐突にココロが口を開いた。

「無理を言うようだけど...」

「ん?」

「お母さんの状態を見てもあんまりおどろかないでほしいな」

 うつむき加減の顔と、ワントーン低い声。言葉の内容から察するに、病状はだいぶひどいのだろう。

 そして、その姿を見た僕が恐怖や嫌悪などの負の感情を抱いてしまうのが怖いのだろう。自分のお母さんなのだ、そう思って当たり前だ。もちろん、僕もそれなりに覚悟をしてきている。

「うん。大丈夫」

 できる限り優しい声で、ココロに安心してもらえるように言った。

 

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