第15話 知らないを知る感覚
「やあココロ」
部室のドアを開けて、ならべく明るい声でココロに声をかける。
昨日のことをなるべく思い出さないように、普段どうり振舞うようにしようという努力のためだ。
「あー、ミライくん。昨日はごめん、やっぱり気を使っちゃうよね。」
ボクはどれだけ演技が下手なのか。それともココロが凄いのか。僕の努力は、簡単に見抜かれてしまった。やっぱりこの人には勝てそうにない。
「それはいいんだけど、ココロはもう大丈夫なんだよね?」
「うん。もう大丈夫」
ニコッと笑って微笑むココロには、もう違和感は感じられなかった。
もう一度昨日の話に戻してしまうようだが、僕は気になったことをココロに聞いてみようと思う。昨日と同じように窓際に椅子を持ってきてそこに座る。
「ココロ、聞きたいことがあるんだけど」
反対側に置いてある机で楽譜を確認していたココロに声をかける。
「ん?」
僕の声掛けに、ココロは目を離さずに返してくる。
「昨日言ってた半分正解ってさ、間違ってる部分も半分あったってことだよね?」
ここでやっとココロは僕を見てくれる。
…あれ、僕はなんでこんなことを考えているんだ?
「うん。半分間違ってる気がしたの」
「なるほど、で、どこが間違ってたの?」
「あのUSBメモリなんだけど、確かにあのUSBメモリに関係あることだったけどさ。」
その話を聞きながら、またカバンのポケットに手を突っ込む。
「あれに深い意味がないって言うのは本当なんだよ。」
な…
「だから、半分あってるのかなって思ったの」
なるほど…僕は盛大なミスをしてしまったらしい。こんな所であの話を持ち出して…確かに、ココロのお母さんのことを考えると関係ないわけではないけど決め手になる訳では無い。
「そっか…」
あれ、まてよ?
´母子感染する確率約8割 私もなのか´
この文章は結局なんだったんだ?もしかして…ココロも?
話を終えて作業に戻ろうとするココロを慌てて呼び直す。
「ココロ、あのUSBメモリに書いてあった母子感染ってのは…」
僕の慌てようとは裏腹に、ココロはこのセリフを聞いてニヤリと笑った。
「なんだ、ミライくん。やっぱりあのUSBメモリ、中身読んでたんじゃん?」
あ、しまった…
けど、好奇心に負けて読んでしまったのは事実であるし、今更誤魔化すことなど出来ない。素直に謝るべきだ。
「ご、ごめん」
頭を下げる僕に、ココロは言うのだった。
「別に気にしてないよ?持っててって言ったの私だし」
ココロの口から出たのは許しの言葉だった。ココロにもしっかりと優しいところはあるのだ…このセリフが散々笑った後に出た言葉でなければ。
「安心して〜私は検査の結果陰性だったから。ミライくんが見た文章は結果待ちの時に書いた黒歴史だよ〜」
その言葉を聞いてほっとしている自分がいた。
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