第14話 文化祭で演奏ですか3

「ミライくんが言ってること、半分はあってるかな」

 ココロはマイクスタンド等練習機材のある場所から窓際に移動する。そして僕らの打ち合わせスペース兼雑談スペースである、向かい合わせにした机に椅子を近づけて座る。僕も向かいに座れるよう、椅子を運びながら答える。

「半分正解で、半分間違えか。僕もまだまだだね」

 僕は持ってきた椅子を机には入れず、窓側の壁を背にする形で設置する。窓から外を覗くようにしていたココロは、僕が座ると同時に僕を見る。

 そして、ある話を始めるのだった。その話によって、僕の記憶からひとつの世間的ニュースが引っ張り出される。

「ミライくんはさ、進行性声帯侵食症候群って病気知ってる?」

 僕は無言で、コクリと頷く。

「私のお母さんがさ、その病気なの。」

 ある程度は予想していたが、実際に聞くと衝撃を受ける。何も言えないし、どうすることも出来ない。

「驚いた?」

 僕の気持ちを察したのか、質問形式に話を進めてくれた。こうゆう所がココロが人を引きつけるところなのだろう。

「うん。そんなこと言われたら、普通は驚くんじゃないかな」

「だよね。」

 ココロは苦笑いを浮かべる。

「それでさ、病気の内容を知ってるのなら分かるかな。もうほとんど声が出なくなっちゃってきてて。」

 声が出なくなる。この病気の特徴的な症状の1つだったはずだ。たしか、なってからだいたい1年弱でその症状まで至るはずだ。

「お母さん、発症してからもうそろそろで1年なんだ。結構元気でしょう?」

 苦笑がみるみる悲しみの顔に変わっていく。

「だから、私がさ、お母さんがやってた軽音部で、どこまで成長したかを見せたかったの。直接来れるわけじゃないんだけど、いとこのおねえさんがリモートで文化祭をお母さんに見せてくれるって言ってて。」

「それで…」

 もう、今にも泣き出しそうなココロの顔を見ていられなかった。

「だから、僕も本気でやって欲しくて焦ってたってことか。」

 ココロは微かに読み取れる動きで頷いた。

 ここまで話したらココロは泣き出してしまった。いつものいつもの悪魔はどこへやら。けど、そんなことで喜べる状況じゃないのは空気が読めない僕でも分かる。だから僕は、ただココロの話を聞くことだけに集中をした。

 

 気づいた時には部活終了時間の10分前になっていた。今計算してみると、丸々1時間も話してしまっていた。最後の20分位には、もうココロもだいぶ普通に戻っていて、内心とても安堵した。

 ある一点を除けば。

 話をしているうちにココロの口車に載せられ、ココロのお母さんに会いに行くことになってしまったのだ。そのこと自体は別に嫌では無いのだが、ココロに余計なことをされるんじゃないかという不安が、どうしても拭うことが出来なかった。

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