第13話 文化祭で演奏ですか2

 僕には1つの気がかりがある。たとえ文化祭の話が出ているとしても、本番は1ヶ月も先である。前に合わせた時の完成度と、その練習期間を思い返してみても、こんなに前の段階から練習する必要などあるのだろうか。

 もちろん、僕はギリギリココロについていけていたようなものだが、それなりに形になっていたし、もう一週間あればそれなりにいい演奏となっていたはずだ。

 つまり、僕にはココロが何かに追われているように見えると言いたい。簡単に言い換えるなら、焦っているように見える。ココロとの付き合いは全く長くないので、正確にどこがどうとかは分からない。けど、普段どうり振舞っているように見えて、ところどころでなにか違和感が顔を出してくるのだ。同じ部活で、一日の3分の1はココロと居る生活であるため分かるのだ。

 ココロは、さっきの話を持ちかけて来た後も、特にいじったりしてくることもなく自主練に入った。また違和感が大きくなる。

 思い切って、発声練習をしているココロに話しかけることにした。

 まったく、テストの前より緊張する。深呼吸…

「ココロ」

 思ったより大きな声がでてしまった。ココロがぴくっと驚いたような素振りをして、振り返る。そして、ニコニコと笑いながら首を傾げる。

 この自然に出たように見える笑いさえ、どこか無理に作っているように見えてしまう。

「あの、気になることあるんだけど…」

「ん?」

 ここまで踏み切ったはいいが、何を言えばいいか分からなくなってしまう。言葉が出てこない。

「どうしたのさ、ミライくん。もしかして、私に惚れちゃった?」

「…」

 どうしたの?と聞くのはちょっと変か…

 なんで無理して笑うの?これは、違っていたらヤダな。

 なにか、ふさわしい聞き方は無いものか。

「…ミライくん?」

 あー、そうだ。1個ある。変に他人行儀にならず、僕らしく。

 そして、ココロの隠していることを聞けそうな方法が。

 僕はカバンのポケットに手を突っ込んで、アレを取り出す。

「ココロはさ、なんでこれを持っていると飛んでしまうの?」

 そう、あの時からずっと持っているUSBメモリだ。

 ´母子感染する確率約8割 私もなのか´このテキストと、パスワードウィンドウが脳裏に浮かぶ。

「あ〜。なんかあったね〜、別に深い意味はないよ。」

 ヘラヘラと笑って手を振るココロ。僕はそれを見て、自分でも不思議な感情が込み上げてきた。

 怒り…?

 それを理解する暇もなく、僕の口は動いた。

「嘘つくなよ。」

 自分でも驚く程に冷たい声が出た。自分でも驚く程に必死な声が出た。

「なんで嘘だと思ったの?」

 その返答に、僕は思考をめぐらすことなく、またも口が勝手に動く。

「ココロを見てれば分かる。」

 自分でも驚く程にキザなセリフがでた。

 見開かれたココロの目は、悲しむような、諦めたようなそんな目になっている。暗闇に沈んだような目に。

 僕は驚いた、内心では驚いていた。だけど、なぜか思考は冷静だ。

 そして、僕の頭は悠長に、ココロの目が童話の人形姫が絶望している様子に重ねて見えていることを考えていた。

 

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