第12話 文化祭で演奏ですか
あの日、ココロと始めて音楽を合わせた日。その日から僕の日常が変わったように感じる。もちろん、その変化はいい変化の事だ。
今まではだらだらと過ごしていた時間も、軽音部のための演奏を練習する時間に当てるようになったし、放課後も部活ため学校にいるため少なからず他人と関わる機会も増えた。友達と呼べる存在も出来た。
要するに、多少は真っ当な人間に近づけたということだ。真っ当な人間が何か、という話を始めると拉致があかなくなるのでしないが、いわゆる普通の人間に近づいたということだ。普通の人間、普通の生徒に近づいたということは、学校における普通にも近づいたという事になる。
回りくどい言い方を辞めると、学校行事への参加ということだ。今までは適当に流していたが、今回からは色んな人が僕を巻き込みにやってくるようになった。ココロを筆頭として。
一週間のうち、半数以上の日にちに演奏の練習をしていたからだろうか、学校内で軽音部が話題に上がるようになっていた。
同時に僕の噂も。
「神道って、美山と付き合ってんの?」
とか
「神道君。美山さんと仲良いよね、何かあるの?」
とか、男女問わずに聞いてくる。聞き流して変に誤解されてもめんどくさい。かと言って、必死に否定しても誤解されかねない。
正直に言って、めんどくさい。
違うよ、部活だから。みたいなことを言ってはいるが、どこまで効果があるのやら。人間とは自分が思い込んだことを真実だと思い込みたがる習性があるらしい。
本当に、めんどくさい。
さらに厄介なのは、このことをココロに相談しても
「そんなのほっとけばいいよ〜むしろ、ほんとに付き合っちゃう?」
なんてヘラヘラしてるし。
僕はある種の真っ当な人間になりたいと思っていた。
けど、実際なってみると、いやなろうとしてみると、思っていたのと違う感がある。
色々な付き合いをするのはめんどくさいし、それが自分に合っていない事ということにも気づいた。
最近の状況を思い出しながらため息をつく。場所は部室のすみの机。
ここ最近の僕の定位置で、部活時間外の逃げ場にもなっている。
「そんなため息ついてどうしたの?」
急に透き通るような声をかけられる。聞きなれた声、この惨事の元凶である。
「いや、なんでも」
もちろんそんなこと言えるはずがない。頬杖をつきながら窓から見える野球部の練習に目をやる。
「ほほ〜ん。まぁいいでしょう。」
いつもならすぐさまいじってくるはずだが、今日は直ぐに打ち切られた。
それを幸いと見るか、不幸と見るかは別として、いじられるよりも厄介な話を持ってこられた。
「ミライくん。軽音部がねー、文化祭で演奏することになったよー 」
「…え」
「それで提案なんだけどさ。」
「…」
嫌な予感がする。それは、僕だけだろうか。うん、僕だけだろう。
「ミライくんも一緒に歌えるデュエットの曲でエントリーしといたよ」
「は?」
エントリーした?相談してからじゃないの?
「いや、まって…」
「あー、これ。部長命令ね〜。」
バレリーナのように体をくるりと一回転させるココロは、第三者が見たらとても美しく見えるだろう。天使、なんて例える人も出るだろう。
けど、勘違いしてはいけない。この人は悪魔だ。
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