第11話 いざ、演奏!2
演奏は、ココロの伴奏から始まって直ぐに僕のギターの音が重なった。
2人のちょっとずつズレて平行に進む音楽がゆったりと流れていく。
そして、歌が始まる…
刹那、僕は息を飲む。あの日この部室の前で聞いた声を、いつも歌うように話すココロの声が不意に頭をよぎる。そして、今の声が重なる。
透き通るような、でも遠くまで届きそうで、優しいのに、悲しそうな声。
一気に手が汗で濡れる。ギターを落としそうになる。慌ててギターを握り直し、なんとかココロについて行こうと努力する。1度でもミスをしたら全て崩れてしまいそうなほど、綺麗なバランスを取っているこの音、メロディ。それを僕らが作っている。
サビに入る
ここで雰囲気がガラリと変わる。今まで寂しそうな雰囲気を漂わせていた歌は、仮面を脱ぎ捨てて力強い歌に変わるのだ。
それを、ココロは完璧と言っていいほど正確に、優雅に表現する。
今までバラバラに踊っていた美しい音たちが、まとまりを見せていく。
どこか歪に作られていたパズルのピースがあるべき場所にハマるような。
とても綺麗で、力強くて、美しい。
悲しそうで、辛そうで、でも希望を持っているような。
そんな歌声、そんな音、そんなメロディ。
この歌は、どんな文豪でも言葉では表現することが出来ないんじゃないだろうか。
サビが終わってしまっても力強さを失わない不思議な歌声。
演奏が終わりに近づくに連れて段々と歌の悲しみ、絶望感がましてくる。
でも、サビの余韻が残っていて未だに熱が引かない。だから、歌とは相対的に希望や優しさを感じてしまう。
そして静かに曲が終わって、全ての音が響かなくなった。
演奏を終えた時、鳥肌がたった。涙が出そうになった。
これだけの音楽を、たった2人で作れるのだ。このメロディを2人で奏でる事ができるのだ。
そんな大きな感動を感じる。
けど、それと同時に劣等感も感じてしまう自分がいた。
この音を、メロディを作る上で僕は邪魔だったのではないだろうか。だって、このメロディはほとんどココロが作り上げたような物に思えてしまうから。彼女が天才で、それでいてこの軽音部に熱い情熱を抱いているから出来たことなのではないだろうか。
2つの対になる感情が同時に心に存在していて、不思議な気持ちだ。
「良かったね」
曲が終わった姿勢から全く動いていないココロが、ぽつんと呟いた。
「うん、凄かった。ココロがこんな風に歌えるなんて。」
僕も素直に答える。
すると、ココロがくるりとこっちをみて僕の目をじっと見る。恥ずかしいが、目をそらさないようにココロの目をじっと見つめ返す。
「今、自分はそんなにすごくないって思ってるでしょ」
不意をつかれて言葉につまる。
「図星かな?」
さっきの歌を歌っていたとは思えないように態度を激変させて、いつものようにいじってくる。
「…」
けど、当たっているがためになにも言えない。
「ミライくんがそう思ってても、私はそうは思わないな。だから私はミライくんをこの部活に入れたんだから。」
ふと目に力が戻ったような感覚。ココロとまた目が合う。
どうやらいつの間にか俯いてしまっていたらしい。目がいきなり合うとやっぱり恥ずかしくて耐えられない。とっさに目を逸らしてしまう。
それを見てココロがくすくすと笑って、もどったね。と微笑む。
これを見て、僕は悟ってしまった。絶対にこの人には勝てないと。
どこかココロに対して抱いていた対抗心がすっと消える。それと同時に、ココロに対しての、不思議な感情が芽生えたのが分かった。
不思議な感情とは、多分憧れでも、恋でもない。けど、それに似たどこか懐かしいような感情だった。
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