第10話 いざ、演奏!

 部屋の隅に居座っていたギターは、思った通り埃まみれになっていた。30分ほどかけて念入りに拭いてあげると、買った時と同じくらい綺麗になってくれた。綺麗になったギターを見ていると、構えてみたいと思ってしまうのは人間の心理だろう。しばらく弾くわけでもなく、しまうわけでもなく腕にギターを抱える。一通り眺め終えて、手持ち無沙汰になって昨日ココロに貰った楽譜のコピーを見る。この楽譜は親切なことに、ピアノ用、ギター用、ボーカル用と言うように、本来の楽譜の書き方を無視したように書かれている。音楽学的に見たら外道なのかもしれないが、あまり真面目にやっていない僕のような人間にはとてもわかりやすい楽譜に仕上がっていた。軽音部の活動日はまだ明確に決めていないが、ココロいわく来週には試しに合わせてみたいらしい。

 昨日の会話を思い出しながら、律儀に「軽音部」と、表紙まで着いた楽譜をめくる。


 1週間。いつもならば途方もなく長く感じる時間が、ギターの練習と軽音部の活動が増えるだけでびっくりするぐらいに短く感じた。

 合わせようと話していた日からちょうど1週間たった日になった。いい加減見慣れた廊下を通り過ぎて、部室の扉に手をかける。

「今日は本気でやるよ!」

 扉を開けた瞬間に聞きなれた明るい声が飛んでくる。それに背中のギターを見せることで返す。

 僕も変わったものだ。あんなに部活などがめんどくさいと思っていたのに、楽しいのだ。

「ミライくん、弾けるようになった?」

「まぁ、一応弾けるようにはなったかな。」

「さすが!」

 本当に目をきらきらさせていうココロから目を逸らして、ギターの準備に取り掛かる。

「で、ココロはどうなのさ」

 弦を調整しながら聞いてみる。ココロは、不思議そうに首を傾げてから答えを返す。

「大丈夫だよ?だって、歌って伴奏するだけだし。」

 この天才は、歌って伴奏するだけと言ったぞ。才能だけで見たら、僕と違う次元にいるらしい。

「結構難しい事だと思うんだけどな…」

 ぼそっと呟いてみたが抵抗虚しく聞き取って貰えなかったようで、なんか言った?と神々しい声でかき消されてしまった。

「それはそうと、準備出来た?」

 楽譜を開いてキーボードの前に立つココロに問いかける。

「うん。ミライくんは?」

 僕も、ココロの横に移動してギターを構えて答える。

「OK」

「じゃぁ、1回合わせてみようか。」


 今回合わせてみるのはあのノートの最初に書いてあった曲で、「サインG」という曲だ。曲名も歌詞を至って普通な曲だ。この曲を、あの日この教室で聞いたココロの声で歌ったらどんな風になるのだろうか。

 ココロがキーボードに手を置いて目で合図を送ってくる。

 僕もギターを構えて頷き、いいよという意志を伝える。

 瞬時に静かになった教室は今までの廃教室ではなく、しっかりとした軽音部の部室になっていた。

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