第9話 編成と部室と音楽と3
ココロは神妙な顔で僕の顔を覗き込んできた。そして
「知りたいの?」
と、ワントーン低い声で聞いてきた。これは、真面目な話、ということの合図なのだろうか。失礼にならないよう、僕も真剣に返答する。
「うん。教えて」
ココロは1回下を向いて、写真を僕に向けてくる。そして、真ん中に写ってる女子生徒を指さして、俯いたままぼそっと言った。
「この人ね、私のお母さんなの。」
なるほど、この写真に写ってる人はココロのお母さんなのか。そして、その事が関係しているようだ。僕はココロの言葉の続きを待つ。
「…」
ココロは俯いたまま何も答えない。微かに震えているようにも見える。ちょっと嫌な予感がする。
「ココロ、いいたくないn…」
心配してかけようとした言葉は、ココロの笑い声によって遮られる。
どういう意味だ?
「あの、ココロ?」
顔を上げたココロは、僕の顔を見て更に笑う。
「あの、え、続きは?」
僕は困惑しながらに問う。ココロは顔を真っ赤にしてポツリと言った。
「終わりだよ?」
え…?終わり?
「…」
呆気に取られる僕を見て、ココロはまた笑い始める。ここで僕は美山心という人間をしっかりと思い出す。
そして、状況を理解する。
この状況で僕が彼女に背を向けて椅子に座るのは普通だよな?
「なに、そんな真剣な顔して聞いてるのさ。」
ひとしきり僕のことをいじって、笑ったあとにまたからかい始める。
僕は目をつぶって頬ずえを着いて、もちろん無視。
僕の態度が気に入らないのか、ココロが声をかけてくる。
「ミライくーん。」
無視。
「おーい」
無視。
「…」
ゴソゴソと音が聞こえる。が、無視。
「ミライくん。拗ねないで~」
いきなり背後にあったはずの声が、右耳だけに飛んできた。びっくりして目を開け、顔を右に向ける。
すると、ぴんと張った糸みたいにココロと僕の目線が合う。僕とココロの鼻と鼻の間は10センチちょっとくらいだったんじゃないだろうか。
近い。それだけが頭に浮かぶ。
一間開けて、僕はとっさに顔ごと視線を逸らす。
「なーに、赤くなってんの?」
初めは無視をした。けど、にやにやしながら煽ってくるココロを見てるいると、僕の安っぽいプライドが馬鹿らしく思えてきてしまった。めいっぱいココロに嫌な視線を送って
「はぁ、もう、いいでしょ。」
と、僕の中では珍しく、他人に強く当たってしまったかもしれない。
嫌な雰囲気になると予想した僕は、ちょっと後悔する。
けど、全てにおいてココロは僕の予想を裏切ってくれるようだ。
「やっとこっちみてくれたよ」
「え、」
びっくりして声が漏れてしまった。びっくりして表情を動かさなかったからか、ココロは慌てたように謝ってくる。
「ごめん。ちょっとやりすぎた」
その言葉と、ココロの表情で僕ははっとなる。
「あ、いや、もういいよ。」
そして訪れる僕の嫌いな雰囲気。なのに
「そっか、じゃあさ。」
と、箱に入っていたノートを僕の目の前に持ってきて、さっきまでとはまるで違う明るい声で提案をされる。
「このノートにさ、お母さんが部長の時代に使ってた楽譜が書いてあるの。」
パラパラとページをめくって見せてくる。ぱっと見る限りでは、ちゃんとした曲が並んでいるように見える。
「でさ、これなにか1曲演奏してみよーよ。」
これは、贖罪のつもりなのだろうか。そうなら、否定する訳には行かないだろう。辞めたギターだが、ココロに言われると案外すんなりもう一度やろうという気になれた。
色んな理由が重なったからだろう。すんなりと言葉が出た。
「ギター持ってきたらね。」
この言葉が出た理由のひとつに、ココロが不思議な人間であると言うことも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます