第8話 編成と部室と音楽と2
この箱は、いつの時代のものだ?と言われてもおかしくないほどに汚れている。このアンティークな箱の中に一体何が入っていると言うのだろう。
それ以前に、この学校に軽音部というものが存在していたとは。
これが姿を現してから一切声を発しないココロに目をやる。
彼女は、驚きもせず、はしゃぎもせず。後ろから見ているため表情までは分からないが、背を見る限りどこか懐かしそうにそれを見ているようだった。
ココロは無言のまま箱のフタに手を掛け、ワンテンポ置いて開ける。中が見える状態で、それを持ち上げ僕の方を向いた。箱の中には、ちょっと汚いノートとちょっと汚いファイルが入っていた。どちらにも、軽音部と書いてある。僕は箱に気を取られてココロの顔を見ることは出来なかったが、ココロは確実にこう言った。
「あった」
そう、あったと言ったのだ。まるで、これがここにあることを知っていたような口振りで。驚いて彼女を見たが、目が合ったココロはいつもどうりニコニコとしていた。
見つけたノートやファイルは置いておいて、掃除を終わらせようということになり、半濡れ雑巾をもう一度濡れ雑巾にするために教室を出る。水道の冷たい水に手を晒しながら考える。なぜココロはあの時あったと言ったのだろう。そして、箱を取り出した時ココロが纏っていた雰囲気はなんだったのだろう。
掃除が終わると、この教室が思っていた以上に広いということが分かった。今まではいつから置いてあるか分からないガラクタや、しっかりと整理されていない机等が置いていったせいでスペースが無駄に消費されていたのだろう。初めて来た時に気になった蜘蛛の豪邸も撤去させてもらったこともあり、印象はだいぶ明るくなった。
「いやー、ミライくん。おつかれだねー」
あの箱を見つけてからほとんど仕事をしてなかったココロが伸びをしながら話しかけてくる。全く勝手な人だ。
「はいはい。で、あの箱は?」
これ以上相手をするのはめんどくさい。だから、箱に話題を移す。
なにか言ってくるかとも思ったが、案外すんなりと会話に乗ってきてくれた。教室後ろにあるロッカーに置いていた箱をココロが持ってくる。そして、新しく2人分並べた机の上に置く。
「中にはノートとファイルだね。しかも古い。」
ココロがノートを手に取りながら興味を示しているような顔をする。
頷くことで反応したあと、僕もココロにならってファイルを手に取る。手の上でクルクルとファイルを回して観察していく。そして、表紙を開けた時だった。何かが挟まっていたようで、ファイルのページから落ちた。
ココロも気になった様子で、それを拾った僕の手を興味しんしんに覗いてくる。落ちたものはどうやら写真のようだ。中には3人の生徒が写っている。男子が2人と女子が1人、写っている場所はこの教室のようだ。この教室独特のロッカーを確認出来る。このファイルに挟まっていたということは、昔あった軽音部の写真だろうか。
「ココロ、これ…」
言いかけて止める。ココロが見たこともないような表情をひていたからだ。
冷たい顔。怒った顔。悲しんだ顔。切ない顔。微笑み。
その全てに似ているようで似ていない表情。その顔で写真を凝視している。少しびびってしまったが、覚悟を決めてもう一度声をかける。
「ココロ、これがなんだか知ってるの?」
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