第7話 編成と部室と音楽と

 僕は改めてココロのことを尊敬した。いや、恐れたと言うべきか。

 僕が返答してたったの1日でひとつの部活を作り出したのだ。そう、部員2名の軽音部を。それに、いま僕が立ちすくんでいるこの廃教室を部室としてしまった。先生さえも、マドンナの話術には勝てなかったようだ。彼女の話によると、僕が部活に入ると言ったその日のうちに先生に申し出てOKを貰ったらしい。

「ちょっとお願いしたらいいって言われた。けど、この廃教室は掃除しないと使えないね。」

 だそうだ。そして、今に至る。

 僕は話を聞いて愕然としながら、掃除nowの状態であるココロを見ている。

「いつまでぼーっとしてるの?ミライくんもやって。」

 はぁ、と腑抜けた返事で返してほうきを手に取る。驚きすぎて疲れたか、それとも事の進む速さについていけずにいるためか、手に取ったほうきが重く感じる。鉄か何かでできているようだ。

 重い手を動かしながら、ふと浮かんだ素朴な疑問をココロにぶつける。

「そういえばさ、部員二人だよね?僕とココロで」

 ココロは僕の目もみずに黙々と手を動かしながら、うん。と答える。

「でさ、軽音部なんだよね」

 さっきと変わらず、無機質に飛んでくる2度目の返事。それを聞いていったん間を置き、疑問を口にする。まぁ、ココロのことだろうから…

「2人で軽音部やるってことは?そうゆうことなの?」

 手を止めてココロを見る僕と、不思議そうに僕をみるココロの目がピッタリとあう。そして、ココロが口を開ける。

「うん。そうだよ?私がキーボード引きながら歌って、ミライくんがギター引きながら歌うの。」

 予想どうりの返答に迷わず用意していた言葉で返答する。

「なるほどねー、理解。」

 そして、予想しなかった部分に気づいて驚く。

「ねぇ。」

「なに?ミライくん」

「なんで、僕がギター弾けることを知っているの?」

 すっかり掃除に戻って背を向けていたココロがバレリーナ顔負けのターンをかまして人差し指を口に当てる。そして、いつもとちょっと感じの違う小悪魔みたいな笑顔で言った。

「ひみつ」

 小悪魔といってもだいぶ子どもっぽくて、それでいてとても綺麗だった。

 さすがマドンナと言うべきか、異性としてとても綺麗な人だと思うのだった。

 

 1時間も経たないうちに掃除は終盤戦に差し掛かっていた。ガラクタに埋もれて何がいるのかわからなかったロッカーが姿を表す。この教室には、他の教室とは違って部屋後方に三十個ほどの正方形の棚のようなロッカーが備え付けてある。少し古いのか、この教室に特別な使い方でもあったのか、理由は分からないが掃除が面倒になるのは事実であった。

 その中には見るからにゴミ、というものが沢山放り込まれていた。もちろん、これらも片付けなければいけない。僕は右側から、ココロは左側からという役割分担をして、中のゴミを取り除き綺麗に吹いていく。

 僕が六個目のロッカーをふき終えた時、ココロがひとつのロッカーを見つめながら僕のことをよんだ。作業を中断して近づいていく。すると、ココロがロッカーからある箱を取り出した。箱の蓋には、この学校の名前と「軽音部」という文字、そして数人の名前が書いてあった。

「ココロ、これって」

「うん。昔、この学校にも軽音部が存在していたんだろうね。」

 箱の裏を見る。すると

「今後の軽音部へ」

 そう書いてあった。

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