第6話 この状況で軽音部3

 次の日、僕は彼女から逃げることは出来なかった。まさかの事態だ。

 放課後、彼女が、美山心が、学年のマドンナが、僕のクラスに来て、僕を呼んだのだ。そしてなんとも誤解されやすいような言葉を、嫌がらせのように言い放った。

「ミライくん!いつもの場所で待ってるから。」

 この言葉で教室が静まり返って、全ての視線が僕を突き刺す。どうせ軽音部に入るか否かの返答を聞きたいだけだろうに。よくもやってくれた。

 第一、答えなど決まってしまっているようなものだ。あの状況で、さらに半分脅されて誘われた軽音部。断れるはずがないのだ。幸い、僕はギターが出来る。意外かって?その通りだし、僕でもそう思うレベルだ。中学1年生で初めて、2年ちょっとは本格的にやっていた。部活でやっていた訳では無いが、それなりに真面目にやっていたから、軽く弾き語りくらいはできるはずだ。だが、かれこれめんどくさくなって、1年は触ってない。ちょっと練習すれば感覚は戻るだろうが、僕の見立て上多分大丈夫だろう。

 そもそも、なぜ僕がギターを始めたかを話しておこう。

 さっきも言ったように、中学生の時ぼくは帰宅部だった。無論、めんどくさかったからである。でもいざ帰宅部になってみて、とても後悔をした。もともと苦手だったコミュニケーション能力がさらに衰退してしまった。その時、コミュニケーション能力は捨ててもいいから何かをやらないとダメになってしまう、と危機感を持った僕は楽器をやろうとした。

 でも、男子で中学生からの楽器だ。親にろくに相談もせずに選んだ僕は当時ハマってた歌手の弾き語りを見て、ギターを始めた。初めて買ったギターは適当に調べておすすめにでてきた2万円弱の黒のギターだった。

 インターネットショッピングで買ったから、届くまでがとってもたのしみだったのを今でも覚えている。

 練習はよくある見ればひけるようになりますよ。と言うような動画をみて、我流で練習した。我流と言っても1日何時間も練習して、1年経つ頃には簡単な曲なら直ぐにひけるほどになったのだ。けど、受験シーズンを前にしてやめてしまった。あんなに熱心にやっていたのに、辞めようと思えば驚くほど簡単に辞めることができた。

 

 重くのしかかってくる無言のプレッシャーから逃げるように教室をでる。この教室だけ重力が3倍くらいになってるんじゃないだろうか。

 教室から出て開放された途端に頭に浮かぶ予感

 ギターをまたやるかもしれない。

 ちょっと期待してしまった自分に嫌気がさしてくる。半分はめられたようなものなのに。けど、なぜだろうか。これは僕の人生を変えてくれるような選択に思えてしまう。いや、実際そうかもしれない。

 いつもの廃教室の前に立って、いったん息を整える。ドアに手をかけ、開ける。目に入るのはココロの嫌になるほど明るい顔。何かを待っているようにも見えるだろうか。

 そして、二択に見える一択の答えを言葉にしてしまう。

「この学校に軽音部ができるなら入ってもいいよ。」

「そう言ってくれると思ったよ。ミライくん」

 嫌になるほど明るい笑顔が、もう憎たらしく見えてくるが決定は決定だ。

 軽音部ができるならと言ったのは、僕なりの抵抗なのだが学年のマドンナの前では無意味なのだろう。

 

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