第5話 この状況で軽音部2

 それを持ってると飛んでしまいそうなので?

 それってこのUSBメモリのことだよな、どういう意味だろうか。

 あのパスワードのかかったフォルダの中になにか入っていたのだろうか。いや、入っていたのだろう。ならば、どんな内容なのだろうか。

 僕が見た文章から察するに、なにかの病気関係だろう。もしかしたら…

 彼女のぶっ飛んだ言葉の真意を理解するために回していた思考は、またぶっ飛んだ発言によって遮られた。

「私さ、軽音部を作ってみたいんだよね。」

 あの美山さんが軽音部をつくりたいのだと言ったのだ。あのマドンナが…

 普段第三者として見ると、まさにお嬢様と言うような振る舞いをしているように見えるあの美山さんがだ。僕の中では夏に雪が降るくらいの衝撃だ。

「…うん、そうなんだ?」

 現実に頭が着いてきていないからか、ちょっと腑抜けた声で喋ってしまったかもしれない。

「うん。でさ、神道君って部活入ってないよね?」

 なんだ?バカにしたいのか?確かに僕は部活に入っていない。理由は簡単、めんどくさいから。

「ん?…うん。」

 やっと思考が追いついてくる。要は、彼女は僕の想像していたような人物ではなくて、もっと活発な人だったのだろう。

「ならさ、私が作る軽音部に入ってくれない?」

「え?」

 …さらなる衝撃発言に、僕はまた頭が現実に置いていかれる。

 夏に降った雪は吹雪だった。

「そこはうんって言ってくれないのか。」

 いったんまってくれ?なんでこの状況でこんな話になって、僕がまだできてもいない部活に誘われているんだ?なんで僕なんだ?てか、この人はだれだ?

 まったく意味が分からない。全てが理解不能。エラー。

 いったん1からもう一度聞こう。それで判断する。夢か、ぶっ飛んだ話か?

「美山さん…」

 こんどは呼びかけが遮られる。

「ココロでいいよ」

 はぁ、なるほど。まったく関わりのないような僕に名前で読んで欲しいらしい。まぁ、こうゆう人はけっこういる?だろう。さすがに驚かなくなってきてしまった。

「じゃあ、ココロさん?」

「ココロ。」

 さん付けも許されなかった。

「…ココロ、なんで僕なの?」

 一応聞いたが、今の僕は何一つ理解している状態じゃないのだ。

「え?なんとなく」

 …もう、なんか、わからない。この、美山心が分からない。

「なんとなく?」

 なんとなくだよ?と彼女は当たり前のように答えた。

 百歩譲って軽音部だのUSBメモリだのの話を置いておいても、この時点で意味がわからない。

「うーん、僕はそもそも部活に入る気がないから…」

「君は私をココロって呼ぶから、私は君をミライってよぶね?」

 当たり前のように僕の言葉を遮って来た。

「あのさ、だから…」

「USBメモリの中身って読んだn…」

 あ、まずい。これは嫌な空気になる予感がする。

「あのっ、取りえず考えさせて。」

 やっと言えた僕の意見は、これだ。もう、負けた気しかしない。

 この後もココロは何かを言おうとしていたし、実際に言っていた。けど、その言葉を背中に、半場強引に廃教室から出た。いや、逃げた。

 帰りたかったのだ。

 ここまでやられると、本気で考えなければ行けない。

 

 布団に入ってから、本日37回目のため息をついて彼女の言葉を思い出す。

「ならさ、私が作る軽音部に入ってくれない?」

 …はぁ。

 これで38回目。

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