第2話 プロローグ2

「え…あ、し、神道くん?」

 あからさまに戸惑った様子で声を発したのは、僕のクラスメイトでありこの学年のマドンナ的存在、美山心(みやま こころ)だった。どうやら僕のこと、神道未来(しんどう みらい)という名前と顔を覚えていてくれたらしい。

「すいません、美山さん綺麗な声が聞こえて。」

 なにも隠す必要なんてないだろう。そう思い、ありのままを話す。

「いや、その、ごめんなさい。」

 いつもなら黒い髪に黒い瞳と、まるで氷のような冷たいオーラを纏っているはずの美山心は、俯きながら僕を押しのけて教室を出ていってしまった。もちろんダッシュで。

 ろくに話せなかったが、まぁ仕方ないだろう。もし僕がみんなにバレないように、使われてない教室で歌を歌っている所を見られたら同じようにするだろう。絶対ないとは思うが。

 それにしてもマドンナと言われるだけある。あの美山心という人は、客観的にみて美人だと思った。

「それにしても、どうしたものかな」

 僕の独り言は誰もいなくなった教室に響いた。こんなセリフを吐いた後だが、帰る以外に選択肢なんて無いだろう。

 僕は回れ右をして歩き…出そうとした。けど、視界の端で何かがキラリと光って動きが止まった。教室に向き直って’それ’に近づいていく。

 果たして、それはUSBメモリだった。このUSBメモリの持ち主…今使われていないこの教室で、美山心がいた状況。

 誰のものかなんて簡単に想像がつく。そう美山心のもの、それが正解だろう。

 拾って渡すべきか、そのままにしておくべきか。拾って渡すというのは少しきまずいが、仮に彼女はクラスメイトだ。このまま彼女が無くしたなんて思ってしまったら悲しいだろう、渡してあげようと思う。

 それを拾ってカバンにしまう。

 立ち上がると、次こそ帰ろうと回れ右をする。そして来た道を歩き出した。

 

 ちょっと不思議なことがあったけど、いつもどうりの生活。

 

 自分の部屋で次の日の準備をしていると、カバンからあのUSBメモリが落ちた。反射的に拾い上げると、不意に頭の中で言葉がよぎる。

 ー知りたいー

 自分で考えたことなのに意味がわからない。

 知りたい?僕がこのUSBメモリの中身を?

 いや、ダメだ。不用心に落としたのは彼女だ。でも、人のプライベートを除くなんて最低だ。もし大切なデータが入っていたらどうするんだ。

 そう、頭では分かっているのに

 ー知りたいー

 あの時、教室の前で彼女の歌を聴いた時みたいな感覚がする。

 なぜが、それをやらなきゃ行けないような使命感。不思議な感覚。

 USBメモリをもった手は自分のパソコンに向かっていく。

 そう、見てしまってもそれを言わなければ大丈夫だ。ダメなことをやってるのに、意に反して手は動いてしまう。

 結果、USBメモリの中には二つのフォルダがあることがわかった。

 名前はどちらもデフォルトだった。フォルダ1とフォルダ2。ここまで来ると、もう止めることなど出来なかった。

 フォルダ1をダブルクリック、そこには1つのテキスト。名前は’テキスト’。

 開いてみると、すごく簡潔に文が書かれていた。

「母子感染する確率約8割 私もなのか」

 意味が分からなかった。母子感染?8割り?何かの病気の話だろうか。

 それに、’私もなのか’って…

 なんとも言えない気持ちで、フォルダ2をクリックした。

 刹那、パスワードと書かれたウインドウが出てくる。とても驚いたが、すぐに正気を取り戻す。落としてもいいようにの用心か、それとも家族にも見られたくない何かなのか。

 僕は何か知っては行けないような、踏み込んでは行けない場所に足を踏み入れてしまった気がした。まぁ、勝手に他人のUSBメモリを見ておいて言えた義理ではないが。

 沈んだような、くらいような。落ち着かない自分の心の戸惑いながら明日の準備を始める。そして、布団に入った。でも、寝れない。

 

 

 ちょっと不思議なことがあったけど、いつもどうりの生活。だったらどれほど良かったか。けど、この時の僕の行動を全く恨んでいないしむしろ感謝している。

 

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