第二十話 Love


「胸が苦しい?でも身体に異常はない?」


いつものように、ブランはアルによる教室に行ってブランは思うが儘の異常を訴えた。

アルは驚いた、時間の問題だとは思ったが・・・。


それでもやはり、思ったより早い。


「私もまあ、確かに失恋までセットで経験済みだが、おまえのはなあ・・・。」


ブランの場合、ケースが特殊すぎる。

恋愛経験あっても、さまざまなケースがあるため恋バナも完全にフォローできるわけではない。

今回の場合さらに特殊なために───


「ん、わからん。ちょっと詳しく昨日のことを話せ。」


素直に白旗をあげて、尋問をするのだった。






────結論から言って。

やはり、

間違いないのだが、いきなり"恋"という概念を頭にたたきつけるのはどうかと思った。

その反面、だからといってこの状態を長く続けても苦しいだけだと判断して───


「しゃーない、教えるか。」


溜息をつきながら決断した。


「そもそも、ブランは"好き"には種類があることは理解していたか?」


その質問にブランは"知らない"と首を横に振るしかなかった。


「だろうなあ。多分なんとなく感じちゃいるがうまく区別できないんじゃ余計苦しいだろうなあ。」


納得して、次の質問にうつる。


「ブラン、おまえはスノウをどう思うんだ。」


その質問に、ブランは悩んだ。

数分をかけて、懸命に思いうかべて、いま知っている言葉を組み合わせて・・・。


そして、ゆっくりと語る。


「目が、離せなくなった。

もっと、見たい。

もっと、触れたい。

もっと、一緒にいたい。

もっと、一番でいたい。

誰よりも、スノウを好きなんだって。」


呪いのように、気に入っている以上の愛しさを込めて。

知っている限りの言葉をつかって、最大限の想いを込めた。


「───ソレだよ。」


合格だ、と。

そう言いたいかのようにアルは笑った。


「何かを食べたい。

誰かとなら楽しい。

一瞬で解決するような好きとか、気に入ったとか。

それとは大きく違うもの。


他者に向けて大きく心が動いて、一生を添いたいという願う。


感情の大きな揺さぶりが起きて、成就に大きな現実が立ち房がる。


その呪いのような"好き"を────人は、"恋"というんだ。」


アルから伝えられる範囲で、そう締めた。

素敵で素敵で、中毒のような呪い。

甘美で、苦しくて、しかしそれが幸福な心の揺さぶり。

良いことばかりではない、しかし捨てるものではない。

アルはそう伝えた。


「でも、おまえなら大丈夫だよ。」


アルは確信をもって、そう告げる。

首をかしげるブランに、苦笑もしながら。


「きっと、おまえたちは踏み出せないから苦しいんだ。

だけど、もうわかるだろう。

その術はもう、おまえの心にあるはずだ。」


────ああ、そうだ。

ブランは悩みぬいた末に、しっかり確信して・・・。


「────俺は、"恋"をしたんだ。」


想いを知らずに胸に詰め込んだ苦しさは、それによってようやくほんの少し和らいだ。

自覚したが故の開放だが、全然足りない。

この想いを、ぶつけたいのだ。


アルは小さく笑った、その感情がアルにも分かったから。

だったら後は、背中を押すだけだ。


「だったら、ちゃんと伝えてこい。」


ブランはうなずいて、踵を返して教室から出ようとした。


「明日までの宿題だ────結果を待ってるぞ。」


アルの言葉を受けて、ブランは教室から飛び出した。
























スノウは今日も仕事だった。

自分の部屋で、昨日の想いを拭うように誰にも振り向かずに仕事に打ち込む。


だから、ノック音に気付いても


「はい、在席してまーす。どうぞーぅ。」


入ってきたのがブランでも。


「仕事の件かなー?」


振り向かないから、声がなければ誰なのかわからない。


「宿題だよ、スノウ。」


少し息を吸って決意を込めたひと言によって、ようやくスノウはブランだと理解した。


「ん・・・?ブランか?何かあったのかな?」


しかし、それでもスノウは振り向かない。

振り向かないのは、"もしも"が起きてしまった時の怖さ。

スノウもまた、充分に憶病だった。


「こっちを向いて、聞いてほしんだ。」

「なんだい?ついにLoveな人ができたか?少し待ってな、これを終わらせてから────。」


・・・聞きたくない。

"もしも"ブランにちゃんとした人ができたのだと言われたら、耐えられる気がとてもしないから。

そんなスノウに、やはりブランは容赦しない。


「俺を見てよ、スノウ。」

「わっ・・・」


強引に、肩を掴んでブランはスノウと対面する。

ペンを落として間抜けた声でブランのほうに向いたスノウは、どこか寂しそうな顔をしていて。

ああ、スノウにそんな顔をされたらもう───


「「─────。」」


またブランはスノウの唇を奪う。

可愛いから、といういつもの理由ではなく。

その寂しそうな顔を、させないために。


「・・・俺は、スノウが好きだ。」


口を離して、ブランはいつものように"好き"と告げた。

それは自分への事実確認でもある。

そう、大丈夫。ちゃんと"好き"だ。


「───で、でも、それはLikeってやつじゃ」


思わず意識を飛ばしてしまいそうになったスノウは必死の抵抗であるかのようにそう言うが・・・。


「違うよ。」


断言して、スノウからの言葉を否定する。


「綺麗な空気より

美味しい飯より

話して大丈夫な誰かより


ずっと好きで────俺はスノウに、恋をしたんだ。」


なによりも想いを込めて口にしたその言葉を、スノウは赤面して。

息が詰まったり、出てくるはずだった言葉が思い浮かばなくて、まとまらない。


「え、へ、あ、あたし?!あ、あたし、あたしはっ・・・そのっ、ブランといるのは嫌いじゃないし、ただその恋とかって初めてでそれに別にブラントならいかなとか考えてみてもいいとも思ったけどまだあたしたち始まったばかりだし嬉しいけどはずかし、え、嬉しい?いまあたし何をいって────」

「ごちゃごちゃうるさいよ。」


さあ宿題だ。

はっきりしない言い方を、ブランは一刀両断する。

返事を聞かなきゃいけない。

一方通行のままではダメなのだから。


「っあ・・・え、えと・・・。

ほ、ほんとに好き、なの?

好き、なんだね・・・。


ちょっと早いけど、つきあって、みよっか?

あ、ごめ、みじかくって言ったのにその───っ!!」


また、ブランは唇を奪う。

今度は、そんなのではだめだとお仕置きするように。

スノウはそんな熱烈な愛情表現に気を失いそうで、しかし暖かな気分を確かに味わって────


「・・・好き、になっちゃいまし、た。」


ついに耐えられなくなって、気を失う寸前に一言残した。

ちゃんと最後の最後に、短くはっきりと返答が聞けた。

ブランはそれに満足して抱き留め、誰にも見せない笑みを浮かべていた。

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叙唱メモリアル:黒い狼の奇妙な旅路 @axlglint_josyou

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