十八話 プレゼント

朝、欠伸をして廊下にて車椅子を動かして進むスノウ。

散歩したくて部屋から出ている。

実際、部屋に引きこもったり、単なる移動と違った空気を感じる。

たまには、こんな空気もいい。

そう感じていた時だった。


「おはよう、スノウ。」


廊下にて、スノウを見つけた瞬間に少し早足で歩いてくる少年、ブランが何かを持ってきた。


「んーーー、ああブランか。おはよ。」


寝起きだからだろうか。

すっかり気の抜けた、普段とはまるで違ったふんにゃりと微笑むような顔で返事をした。


「んぅ?」


ブランはそれを見つめた。

スノウの「どした?」と言いたげな反応も含め、絶対に忘れないかのようにじっとスノウの顔を見つめた。


ブランには語彙力がない。

しかし、だからこそ直球の言葉が出るもので────


「可愛いな。」


短い言葉に感じたことを詰め込んで言い放った。


「へぇ、そうか────へ。」


目がすっかり覚めた、と同時に。

顔が真っ赤に染まった。

さっき言われたことは間違いか?それともこっちの聞き間違い?


「そうだ、渡したい物があるんだ。」

「おまっ、へ、あ。ああ、なに??え??」


しかしながらブランの用事は、ただ顔を見に来たわけではなく、冷静でいられないスノウを置いてけぼりで話を進める。


「これ。」

「へ???

い、いいの?」

「うん。」


ブランの手にある、プレゼント用の梱包された何か。

それを差し出すと、スノウは少し躊躇して受け取る。

信じられない、という顔をして数秒プレゼントを見つめる。


「・・・・・誰かに渡して欲しいとかじゃない??ホントにあたs」

「スノウのだよ」

「ぁ、ぅん。」


悪あがきで自分向けであることから逸らそうとしたが、ブランの遮るような否定に撃沈。

顔の赤さが戻らない。


「ぁ、ありがとう。開けていい?」

「いいよ。」


何かの食べ物かな、と思いながら開けてみる。

しかしそこにあったのは食べ物などではなく────


「あっ、これ・・・!」


それを目にした瞬間、嬉しそうな子供のように目を輝かせた。

取り出して、もっと間近で見る。

それは紛れもなく、ブランと帝国のアクセサリー店で買えなかった"モルフォチョウの髪飾り"だった。


その反応だけでも、ブランには宝物だった。

ようやく、自分がちゃんと捧げられるものを捧げて、そしてこんなにも喜んでくれている。


「昨日買ったんだよ」

「・・・付けてみていい?」


当たり前のように頷く。

スノウは早速、いまの髪飾りを外してモルフォチョウの髪飾りでサイドテールにしっかりと付けられる。


「うん、綺麗だ。」


その一連の動作とその付けた後が、いま何よりも好きな光景だった。

思わず、ほんの少し笑みを浮かべる。


「いいものを貰った。凄く嬉しいよ、ブラン、ありがとう。」


スノウも笑みを浮かべた。

誰かからのプレゼント。

これまでの生涯を思えばそんな経験は多くなく、しかもサプライズともなれば嬉しくなろうものだろう。


「はじめて、自分で買ったんだよ。」

「おま、初仕事か?!って、初の給料じゃん・・・いいのか、本当に。」

「いいよ。それを買うためにやったんだから。」


スノウは飛び上がるように驚いて、髪飾りに触れながらブランを見つめる。

何も動じることなく、ブランは頷いた。

最初から、それを買うために文字も読めないのに依頼の掲示板にいたのだから。


レンディエールにも礼は言わなきゃとも思いながら


「・・・ありがとう。」


また笑みを浮かべたスノウを見て、幸福に感じるのだった。


「せっかくだ、カフェにでも行こうか。

ブランも来るかい?」

「うん。」












喫茶店にて。


「・・・。」

「あー、カフェオレ見るのも初めてか?」


ブランは机に置かれたスノウが注文したアイスカフェオレを、警戒する犬が如くじっと見つめる。

やっぱりわんこだぁ撫でてぇなあ、とか思いながら自分の注文したアイスカフェオレを飲む。


「大丈夫だよ、牛乳アレルギーとかじゃないなら飲めるからさ。」

「・・・ん。」


恐る恐る飲む。

顔を歪めることはなく、一口ぶん飲み込んだ。


「美味しい 」

「なら、よかったよ。あたしからのささやかなお返しだ。」

「お返し? 」


それを聞いたブランは、一瞬止まり、下を向きながら首を傾げる。

何か考え込んでいるかのように。


「どした?」

「・・・困ってる。」

「困ってる?」

「・・・俺はスノウから大きなものを貰ってるのに、まだ貰うなんて。」


自由と命を貰ったから、全てを捧げているブラン。

なのに、いま髪飾りのぶんを返されたらギブアンドテイクが成り立ってない。

つまりはそう言いたいのだろうと察したスノウは苦笑する。


「ブランは貰った分を返したいから買ったのか?」


それも悪くないが、でもやはりどこか寂しく感じるぞ。

そう感じながら聞いてみるが、またブランは考え込む。

そうじゃないのかもしれない、或いはそれもあるがまた違う理由があるかもしれない。

そう思いながら返答を待つ。


「・・・喜んでくれる、から。」


たどたどしく、絞り出したブランなりの回答に思わずスノウはニンマリした。

喜んでくれるだろうから、渡す。

やっぱり、そういったわかりやすい方がいい。


「ならあたしもだよ。」


見たことの無い物をちゃんと経験して、それを吸収して貰える楽しみは変え難い。


「・・・そっか。」


納得して、またカフェオレをブランは飲み始めた。

ちゃんと美味いのを分かったから躊躇なく味わう。

連れてきて良かったと、スノウは心底思うのだった。
















「無理我慢できん!よーしよしよしよしよs────ふんぎゃあああああああ!?」

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