第十五話 初デート?
「・・・あのばか。」
スノウの部屋に、その主は居らず。
ため息をつく、スノウの従者「フロウ」ただ一人だった。
机には場所を書かれ、一言記された置き手紙。
いまスノウは出かけていることが分かる。
確かに今の変身魔法の姿ならバレることは無いだろう、と分かってはいるが直接言って欲しかったと思い、二度目のため息が出る。
「・・・あれ、スノウは?」
そんな中、入ってくるブラン。
部屋を見渡し、フロウしかいないのを見て首を傾げた。
「ああ、おはようございます。いえ、大丈夫ですよ。
ただ・・・心配なだけで。」
そう、分かっちゃいるがやはり心配なのだ。
今のスノウは、その気になれば脚の機能を取り戻せるとはいえ、あの状態。
何かあって逃げ遅れる、という懸念を思い出す。
「これが置き手紙です。見ます?」
「ん。」
フロウからブランに手紙を差し出し、受け取ったブランが読み始める、が─────
「・・・・・・て・・・い・・・・こ・・・・k」
「あ、やっぱりウチが読みます。」
遅い。
無理もない、まだ読み書きを覚え始めたばかりなのだ。
これは配慮が足りなかったと反省しつつ、フロウが手紙を返してもらい、読む。
【帝国にちょっくら遊びにいってきまーす☆☆】
フロウは思った────ちょっと腹立つな。
ちょっと危機感が足りないのでは無かろうか。生き生きとして外に行ったことは想像にかたくないが、こう・・・シバキ倒したい。
フロウは目の前にいるブランを見る。
まだ常識を身につけているとは言えないが、実力において護衛にはピッタリだろう。
「じゃあ俺がスノウの護衛するよ。」
「たまにはお散歩にお供くらい連れてけ、このクズ────と、お伝えください。」
言われるまでもなくブランは自分が行くと言い出したものだから、しっかり伝言を頼むことにした。
フロウは頷いて出ていくブランを見送った。
・・・しれっとナイフを隠し持ってたが何か事件でも起きなければいいな、と今更ながら不安に思うのだった。
1時間後─────
「バレな過ぎワロチwwwww」
「バレてるよ。」
フードも被らず何やらよく分からないドヤ顔をしていたスノウの背後にブランが到着した。
「っ・・・・・・ビックリしたじゃん、なんでここに・・・」
「フロウに教えてもらった。伝言もあるよ。」
帝国軍にバレたと一瞬冷や汗をかいたスノウだったが・・・
「"たまにはお散歩にお供くらい連れてけ、このクズ"だってさ」
「あっ・・・サーセン」
更に冷や汗が追加された。
妙に声真似してたし脳内再生で直接言われたような気分になる。
帰ってから説教でもされそうだ。
「フード被って。」
「いやあ暑いし、この姿じゃ分からないだろ?」
「・・・その姿を知ってるやつもいるかもしれないだろ。」
店や壁には昔のスノウの姿が描かれた探し人の張り紙があり、確かにバレそうにはないが・・・。
「・・・しゃーないなぁ。」
ブランのジト目で睨まれ、不安げな顔をするフロウが思い浮かび、渋々フードを被る。
それを見てブランは頷き、スノウの後ろにつく。
「はー、じゃあ行くかー!」
「ん。」
「・・・お」
スノウはあるアクセサリー店に出されていた髪飾りに目が止まる。
ブランも隣から見る。
それはモルフォチョウの姿をイメージした透明感のある髪飾り。
スノウはそれを手に取って眺める。
「モルフォチョウ、ホント綺麗だよなぁ。
不規則に自由に飛ぶ、あの感じが好きなんだ。」
値札には髪飾りとしてはそこそこ値が張る。
ブランにはそれを買うことが出来ない。
単純にこれまでそうだったが金を稼げない。
「・・・また今度でいいや。残ってるか自信ないけど。それに、また来れるかわかんないけどね。」
スノウも他に買いたいものと財布に相談した結果、諦めて棚に戻す。
そして別のものを手にとってレジへ向かっていった。
ブランはモルフォチョウの髪飾りを目に焼きつける。
見た目、色、値札に書かれた数字を。
それはちゃんと手続きして手に入れなきゃいけないことを理解し始めていたため、その場はブランも我慢をした。
いつか、それをプレゼントに出来るように。
「さてと、そろそろ帰らないと。」
数時間、色々回ったあとに買ったものを車椅子のバックにしまう。
「押していくよ。」
「へ?ああ、ありがと。少し腕が疲れてたから丁度いい。頼む〜。」
ブランは車椅子の後ろの持ち手を掴み押し始める。
夏の暑い中、ブランより先に色々見回っていたスノウはすっかり疲れて、脱力して座っている。
「・・・スノウ、俺が金を貰えるようになったら欲しがってたやつ、買うよ。」
「え・・・あはは、いいよそんな。
君の好きな物を買いな。お小遣いとかいる?」
帰り道、ブランが押しながら宣言するがスノウは遠慮して子供扱いのように返す。
「いいよ。いま金で欲しいものなんて無いし、俺がそうしたいんだよ。」
「そっかー、えらいえらいだ。」
「・・・」
更に子供扱いで返されたブランは、少し表情がむすっとなる。
それに気づいたスノウなニマニマとした顔でブランを見上げる。
「おーー?どしたーそんなむすっとして。
むすむすかー?おー?んー??」
「うるさい」
「ふぉっ?!なんだ!拗ねたかガキめ?ふは、ふは、ふはははは!」
「・・・見返してやる。」
エスカレートする子供扱い。
こんな表情はスノウ相手にしかしない貴重なもので、珍しく優勢になっているスノウも大笑いをする。
「ははは、可愛い可愛い。よしよししてやりたいなぁ。いやあ可愛い執事が出来たなぁ。
あ、それならほら。」
「・・・なに。」
ニヤニヤしながらスノウは手を差し出す。
「お手」
「俺は犬じゃない。」
不服も不服である。子供扱いの次は犬扱いときた。
「えっ、あまりに可愛いことするからワンコかと─────んぎゃー!?」
余りに調子に乗って腹が立つものだから、ブランはスノウの差し出した手に軽く噛み付いた。
「・・・・・・・やっぱり犬だな!
いやぁ、可愛いなったーら可愛いなー♪ 可愛いなったら───────あんぎゃああああああああ!?!?」
懲りずにまたしても犬認定。
調子に乗って歌まで歌い出したものだから、今度は痛くなるようにスノウの頭に噛み付いた。
「まじ犬やんけ!!」
「うるさい。」
「ウチの犬は、よく噛みます。猛犬注意!
・・・・まって、また噛もうとしないで、ごめんて。」
流石に懲りたのか、一旦犬扱いは中止。
しかしながら、スノウな心の中ですっかりブランを犬認定していたのだった。
すっかり日が落ちた夜だが、帰り道は道中より騒がしかった。
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