第六話 勉学の一歩

「よう、よく来たな若人。」


これから教室となる部屋にて、ブランを待ち構えていた女性がいた。


「まぁ座りな、まずはそこからだ。」


ブランは頷き、座る。

今は会話が成されていない。


「私はなんか成り行きで君の専属教師になったアルトゥール=ゲオル=パラケリアだ。よろしく!長いならアルでいいよ!」

「わかった、よろしく。」


テンションの差が酷い。

昨日のブランとユイハほどでは無いが。


待ち構えていた女性、アル。

そして座ったブラン。

ようやくの初コミュニケーションはこれである。


何やかんやで、結局ブランの専属はアルになった。


「何から始めるの。」

「読み書きからだ。そうじゃないと始まらない」


まずは読みから。

黒板に書かれてある文字をアルが言って、ブランが復唱する、というもの。

意欲はあるのだろう。 珍しく興味を向けて学ぶ意欲を見せている。


元々、勉強が出来なかった立場だ。

出来なかったことが、出来るようになっていく。

古今東西、そういう事象は総じて喜びだ。


とまぁ、読みはこうして復唱するだけで問題ないのだが・・・。


問題は書く方だった。


「「あっ」」


書こうとすると鉛筆が折れる。

考えたら当然だ。

ブランは桁外れの怪力で、かつ鉛筆の持ち方も分からず、更に力加減も分からない。


「・・・どうするの。」

「専用の鉛筆、明日作るわ。」


今日の読み書きの"書き"は中止。

ならば、ということで"読み"に専念した初日だった。







2日目


ブランは今度こそ文字書きを始めた。

今度は丈夫な鉛筆を錬金術で作り、文字を書く練習を始めた。

文字はまぁ酷い。ぐっちゃぐちゃだ。

それは仕方ないので今後の成長に期待する。


「ほー・・・。」


それはそれとして、アルは一点感心した部分がある。

それは目の前のことに対する集中力。


無心で書き続けるブランを見て納得した。

彼は広い視野を持てない、が。

目の前に対する集中力が並外れている、と。


「なるほどねえ。」


なるほど、局地戦が得意なのも頷ける。

広くない戦場で、ブラン一人を放り込めば地獄絵図にすることが出来るだけのポテンシャルがあるだろう。


彼の才能は確かに、戦場で輝くと言っても過言ではない。

そういう風な利用のされ方は悲しいが、それはそれ。

こうしてちゃんと勉強に活かせたならばいいのだ。




そして休憩時間・・・


「ブラン、読み書きが出来るようになって来たら絵本を読みな。」

「なんで。」

「アレは教科書だからだよ。」


二人ともジュースを飲みながら会話する。 そして唐突に沸いた話題がこれだ。


「教科書、て勉強に使うものじゃないの?」

「そうだな。だから絵本は教科書の先輩だ。」


ブランの間の前に座るアルは、真っ直ぐにブランを見つめる。


「絵本には無意識に読者にあらゆることを教えてくれるのさ。

ハッピーエンドでも、バッドエンドでも。

一つ一つに独立した世界観と、教訓がある。」

「どういうこと?」


そう言われてもブランには分からない。

まだ納得出来るだけの教養はない。

だけど、


「いつか分かる。大体はこういうしかないんだが・・・そうだな。


────面白いからだ。

人は面白いから何故?何?と思考する。これも大事なことだ。ブラン。」


それは、単純で学びにおいて最大の武器。

学びは、熱意を注ぐに足ると学ぶ側がそう感じることで効率を上げる。

傲慢なことではあるが、こればかりは仕方がない事象だ。


「いいかブラン。世界はひとつじゃない。

おまえしか見てない世界。

私しか見てない世界。

誰かしか見てない世界。

そして、そいつらから産まれる世界の数もまた無限大だ。」


極論を言えば、誰かが物語が作ることが出来れば、それだけで世界の構築だ。

今を生きている世界を、誰もが違う視点で見ているから、世界をどんな風に見えるかが違う。

だからこそ、描く世界の数は無限大だ。


「今のおまえは伽藍堂。つまり空っぽだ。

そして空っぽは希望だ。

何せ何でも詰め込める。

でも逆を言えばな、絵本の世界を心底堪能出来るのは────今しかないんだ。」


より見ている世界が狭く、何も分からない今だからこそ、圧倒的にノイズを少なく物語せかいを観測できる。

そうした学びが、最終的に幻想との区別を完成させる。

、と言えるのだ。


「・・・今だけ」

「そうだ。楽しめブラン。時間は待ってくれないんだぜ?」


それを聞いてブランはジュースを飲み干して立ち上がり。


「次やろう、アル。

次は何をやればいい。」

「焦るなよ。ちゃんと熱意には熱意で返してやるから。」


ああ、いいじゃないか。

その眼だ、その熱意だ。

その生に溢れた視線が、未来に何かを築けるんだ。


休憩時間は終わり、また勉強は再開する────。

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