第二章 ルプスレクス

プロローグ"再会の機会"


「・・・それは出来ません。」


滄劉にて、少年はそう告げられた。


ボロボロの肌や服、物騒な大型メイス。

空っぽのように表情のない少年は、首を傾げる。


「どうして?俺は戦えるよ。」

「そうじゃないんです。まだ、まだなにもかもが空っぽな貴方を、私はとても軍隊に入れる気にはならないんです。」


少年と言葉を交わすのは、滄劉の自衛軍所属マシロ=アストレア少尉。

自衛軍、それはあくまで滅ぼすのではなく、自国の民を護る為にある。

その"護る"意味を知らない以前に、この少年は空っぽだった。

何も知らない。知っているのは食べること、寝ること、そして殺すこと。


そんな、あまりに恐ろしい存在がここに居る。

その危うさの塊を自衛軍に入れる訳にもいかず、そして放っておくわけにもいかなかった。


「・・・群。」


ああそうだ、と。

ふと最適な場所を思い出す。


「・・・貴方を、群に連れていきます。

そこならば、きっと受け入れてくれるはず。」


それはマシロが今できる精一杯の手助けだった。

手を差し伸べるマシロに、やはり少年は首を傾げる。


「行きましょう、ブランくん。」


その少年は、かつて運命と出会った一匹狼。

名をブランと言う。








「だからー、知らないってば。」

「というより、覚えていないだろう。」


一方群では、青い髪の少女のような女性が自室でたらけきっていた。

その目の前では女性の従兄である、レイゴルトがいる。

とある書類を用いて、事実確認をしている。

だが女性はてんで覚えていないらしい。


「色んなとこ練り歩いたから、個別に覚えてらんないよ。」

「・・・仕方あるまい。だが一応目は通しておけ、スノウ」


そうしてレイゴルトは書類を置いて出ていった。

残されたスノウという女性は書類を見た。


見た、が。


「・・・やっぱりわからーん。」


頭にはてなマークが無限に浮かび、そして書類を放っておいた。


だがスノウは気が付かないでいた。

覚えのない少年との、実に危うい運命に既に引っかかっていることに。

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