第3話"赫怒の悪鬼"



剣で殺す術を覚えた。

槍で殺す術を覚えた。

鈍器で殺す術を覚えた。

拳で殺す術を覚えた。


あらゆる武器で殺す術を、ブランは覚えてしまった。

しかし背丈は変わらず、小さいまま。

それでも食事をし、鍛えた肉体はかつてとは大きく違う。


────故に、条件は整った。



「準備は整いました。」



スノウの宣言が、周りの空気を張り詰める。

力も技も、短期間に施せるだけ施された少年は、ガラスケースの前に立つ。


公式には未だ成し得ていない、融合種の創造。

その悲願を、この研究所の誰もが望んでいた。



ガラスケースは、開かれた。

今まで封じられた悪鬼は今まさに、解放される。

目の前にいるのは少年ただ一人。


悪鬼は飛び出し、少年と触れ合った。








──────結論から言おう、実験は失敗した。








悪鬼に、ブランは貫かれた。

血が吹き出し、内蔵がぶちまけられた。

赤く赤く、実験場を染める。



「失敗した・・・!融合種が暴走した!」

「馬鹿な!融合種単体は対した力は無かった筈だろう!!」



有り得ない、計算と違う。

いくら相手が少年とはいえ、鍛えに鍛えた1級品。

それが、それがまさか。

たった一度で、ほんの一瞬で。

あっけなく赤い花を散らして死んだ。




「────いいや、違うっ」




ああ、嘘だ。

嘘だと言ってくれ。


血肉が滴り、嫌な湿った音が響き始める。

同時に、硬く割れたり固まったりの音が響く。


とても見てられない光景だが、数少なく直視できた研究員は言及した。


悪魔は少年の体を食い破り、と。


内側の骨が、肉が、内蔵が、より丈夫なモノに変わってゆく。

それを隠す皮膚が黒い硬いモノになり、その上にヒトの皮を造り偽装する。

周りに散った血肉はそのままに、完全な修復を完了する。



「あれが失敗?とんでもないな。」



アグニオスが、薄ら笑いを浮かべた。

ああ、確かに、従来の融合種では有り得ない光景だ。

そして、アレはもはや融合種ではない。


それでも、融合はしたのだ。

物理的に、内側に潜り込んで。



「卿には言ったな。

卿からは人間ヒトを貰おう、と。」



全てを作り変わったブランは、目を開く。

いつもと変わらない、ぼーっとした目で周りを見渡した。



「実現したよ、人を越えようとするなら、こうでなくてはな。

あとは卿の好きにしたまえ。

誰も成し得なかった、失敗作さいこうけっさくよ。」











「・・・あれ、終わったの?」


周りの光景、周りの見る目が、全く違う。

真っ赤だし、臭いし。

皆はだいたい、アレは多分怖がっている。


そして、目の前にいたはずの悪鬼はどこにもいない。



「よいしょ、と・・・!?」



立ち上がるために、手を地につけると、その地は沈んだ。



「ああ。」



身体を動かして、ようやく分かった。

ああ、そうか。



「バルバトス、よろしく。」



悪鬼おまえは此処に居たのか。



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