第2話"他者への見方"



殺し方には色々ある。

その中でも、最適解と呼べる殺し方がある。

生き物であれば、必ず殺しやすい所がある。

少年は、連れていかれた先でそれを覚えることになった。


そこは、過酷で残酷な戦闘訓練場。

およそ子供にさせるような鍛え方じゃない。

殺し方が不適切なら罵られ、適切なら迷わず次の段階へと進められる。

休みらしい休みさえ、ほとんど与えられた覚えはない。



「うん、美味い。」



だが、少年は感謝していた。

鍛えるならば食が必要だった。

実験するには長く、そして実用的な結果データは必須となる。

なればこそ、食や最低限の睡眠は欠かせない。

少年は、その恩恵を受けたのだ。


訓練が過酷?ああ、確かに痛いし疲れる。

罵詈雑言でいい気分がする訳ない。

だがそれは、自身に力を持たせるのに必要なモノだ。

彼らが居なくては、その力を手に入れる術がない。

何より、死なないのがいい。

死んだら何も出来ないから、ちゃんと怪我の治療もするし、手加減もする。



「これが料理された肉か。美味い。」



薄味で、栄養補給は必要分だけでも、味をつけて火を通した料理など、ご馳走を超えた贅沢だ。

つい前まで生きていた地獄と比べれば、なんて幸福だろうか。



そんな中、少年は他者について観察をしてみることにした。

特徴的なのは、三名。


白い髪の氷のように綺麗な人、スノウ。

少年を誘った炎の竜族、アグニオス。

そして、話すことも出来ない誰か。



スノウ。

感情が入る余地もなく、淡々と仕事をこなす。

応急処置も行い、雑に見えて丁寧にやる。

冷たい人物という印象を与えるが、少年にとってはどうでもいい事だった。



「あ、スノウ。」

「・・・なんですか。」

「後で包帯巻直して欲しい。」

「わかりました。後で。」



たまたま通りかかったスノウにお願いする。

冷たい対応だが、このように頼まれてくれる。

殺しに来ないどころか、お願いを聞いてくれるのだから上等だった。

単純に、目を引くほど綺麗に感じて、傍にいる機会が他より多少多かった。

だから、少しの興味はあった。



「ごちそうさま。」



食べ終わり、ふとある場所を見る。

ガラスで囲われたケースにある、真っ黒な生物。

人造融合種。

融合種と呼ばれる、契約者と融合し、意志を通じあって強力な能力を発揮する。

この実験は、それを創造して少年が契約すること。



「"彼"が気になるかね。」

「・・・うん。」



後ろから話しかける男、アグニオス。

相変わらず、嫌な気配がする。

あまり、話したいとは思わない。

だがどうしようも無く強いのが分かり、何も出来ないし、対応せざるを得ない。



「私も"彼"の心はわからなくてね。卿が確かめて欲しいものだ。」

「・・・。」

「卿は空虚だ。幸福も不幸もない卿が、心無く生み出された"彼"が何を想うのか。

せいぜい、失望させないことだ。」



言うだけ言って、離れていく。

ごちゃごちゃと煩いが、口を挟めない。

そして何を考えているかわからない。

先程スノウも、考えていることは分からないが、優しさを感じた。

その原因はアグニオスにあった。

冷たいわけではない。だが、粘つく黒い何かに蝕まれる感覚がする。


いっそ殺しに来れば分かりやすいのに、とすら感じた。



「・・・



・・・少年は、黙秘していたことがあった。

この黒い生物の名前を知っている。

誰にも聞こえない、少年にだけ、意志が通じているかのように、少年は語りかける。



「・・・怒っているのか。」



赫怒の悪鬼、そう言うに相応しい殺意を感じた。

少年はこれと融合する。

まだ少年は分からないことだらけだが、怒っているのは理解出来た。



「いいよ、使ってやるから待ってて。」



・・・この世界における契約とは、第三者の介入を経て行われるもの。

だがもう既に、はこの時点で行われていたのだろう。

それが例え、ヒトで無くなろうとも。


少年は力が必要だった。

だから、例え悪魔でも少年はそれで良かったのだ。








この日、少年は名前をつけられた。


虚空の月、名をブラン。

悪鬼バルバトスと契約した、少年の名前である。

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