蒼真さん、ご依頼です!

@moa5

第1話

「ここ、だよね?」


神代 夏希(カミシロ ナツキ)は手に持ったスマホに映し出された地図と、目の前の洋風の豪邸を交互に見た。


「合ってると思うんだけど…お店には見えないな…。」


昨日、偶然近所のスーパーで見つけたアルバイト募集の貼り紙。

手書きで書かれたその紙には時給と仕事内容、そして応募資格が載っていた。

仕事内容には《簡単な家事、お客様のご案内》と書かれていて、その割には時給が良かった。

なかなか悪くない条件。

ただ不可解なのは最後の応募資格に《この紙が視える方》と書いてあるだけだったこと。

目の前に貼ってあるんだから視えるに決まってる。

ひょっとしたら誰かのイタズラかもしれない。

おまけに辿り着いたのはこの豪邸。


「…やっぱり帰ろ。」


踵を返し帰ろうとした時だった。


さっきまで固く閉ざされていた大きな門が開き始める。

しかし門の向こう側には誰も居ない。


もしイタズラだったら事情を話して謝ればいい。

私は恐る恐る足を踏み入れた。



綺麗に手入れされた庭を抜けると一人の男が立っていた。

透き通るような白い肌に艶のある黒髪。

少し長めの前髪の隙間から除く緑色の瞳と目が合った。


(わっ…綺麗な人…)




「いらっしゃい。さぁ、どうぞこちらへ。」


男はそう言って玄関の扉に手を掛けた。

中へ入ると、アンティーク調の家具が並んでいた。


「お、お邪魔します…」


男の後を追い奥まで進んでいくと、リビングへと辿り着いた。


「はじめまして。僕は榊 蒼真(サカキ ソウマ)と言います。名字は好きではないので蒼真と呼んでください。」


蒼真さんはそう言って軽く笑う。


「神代 夏希です。はじめまして。」


紳士的な人だな、と思いながら私も慌てて自己紹介をした。


「夏希さん、今日はどのようなご依頼で?」


「あ、違うんです。スーパーの貼り紙を見て来ました。出来たら働かせて頂きたくて。」


私がそう言うと、蒼真さんは驚いたような表情をした。

しかし、直ぐに口元に手を当て何かを考え出した。


「そうですか…ふむ…」


そして口角をあげた。


「夏希さん。合格です。これからよろしくお願いしますね。」


「え?合格って…面接とかしないんですか?」


思わず聞き返すと蒼真さんは可笑しそうに笑った。


「あの紙が視えるのならそれで十分ですとも。」





この出会いが、私の非日常の始まりだった。

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