コンビニで、俺の親父が150円で売っていた
るうね
コンビニで、俺の親父が150円で売っていた
コンビニで、俺の親父が150円で売っていた。
「……なにやってんだよ、親父」
「いや、父さん、仕入れられちゃってさ」
へらり、と笑って、親父は言う。
この笑い顔が、俺は嫌いだった。
社会に媚びたような、へつらったような笑顔。
「なに笑ってんだよ」
自分でも、イラついているということが分かる声音で言う。
「親父、会社じゃ部長まで昇進したんだろ? こんなとこで売られてんじゃねぇよ、しかも150円で」
「でもなぁ。父さん、クビになっちゃって、しかも癌にまでなっちゃっただろ? 今の俺の人生につけられる値段なんて、こんなもんさ」
へらり、と笑う。
この笑い顔で、親父は社会を渡り歩いてきたのだろう。
歩いて歩いて擦り減って、そしてついに、コンビニで150円で売られるようになっちまった。
母親が死んでから、男手一つで俺を育ててくれた親父。その親父が、いま150円で売られている。そんで、へらへら笑ってやがる。
俺は無性にイラついた。
そのまま、コンビニ内のATMに足を向ける。
限度額いっぱい、貯金全額を下ろして、レジに向かった。
「うちの親父をくれ」
「150円になります」
俺は手にした札束を、どん、とレジカウンターに置いた。
「釣りは要らねぇ」
「ちょ、困りますよ、お客さん。値段以上のお金を受け取ったら、僕が怒られてしまいます」
「うるせぇ!」
俺は店員を怒鳴りつけて、商品棚に寝ていた親父を引き起こした。
「ほら、行くぞ」
「お、おい」
「いいから!」
俺は親父の腕を取り、引っ張るようにして歩き出す。
店の外に出る直前、店内に向けて声を張り上げた。
「ひとの父親を150円で売ってんじゃねぇぞ!」
「よかったのか」
帰り道、親父がそんなことを尋ねてきた。
「なにがだよ」
「貯金、全部使っちゃって」
「いいんだよ。あれでも足りないぐらいだ」
「そっか……」
そうつぶやくと、親父は静かにうつむいた。
ありがとな。
弱々しいその声を、俺は聞こえない振りをした。
コンビニで、俺の親父が150円で売っていた るうね @ruune
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