第4話
「美崎さん、紅くんは皆んなの紅くんなの。椎名さんは最初からSクラスだったし、紅くんに気がないみたいだから例外として見逃してあげてるけど、途中からSクラスに偶然入れただけの一般人の貴方が紅くんと近づくなんて許されないの。分かる?」
校舎棟の体育館裏。
今日の朝、昼休みここに来るよう書かれた手紙を靴箱から見つけた時から想像はついてたけど、やっぱりか。
他のSクラスのメンバーは能力者家系だから社会的な地位も高くて知名度も高い。
まぁこの人達は何で地位が上がってるのかは知るよしもないけど。
それに比べて私は孤児で素性の知れない一般人。
椎名先輩と違っていくらでも手出しが出来るって訳だ。
Sクラスに入る事が分かった時点でこうなる事はうすうす予想ができた。
「そもそも途中からSクラスに移動なんて学園創立以来初めてらしいよ。本当なんでチビでブスなアンタが出来る訳?マジ意味分かんない。」
「抜け駆けは禁止は紅くんのファンクラブでは絶対ルール。美崎さんはまだ入学したばかりだから忠告までで許してあげるけど、これ以上Sクラスに居座るつもりならもっと別の手段に出るから。」
こんな面倒くさい人達がファンにいる紅先輩マジで可哀想……
てかクラス移動とか私の自己判断で出来る訳ないって分からないのかな?
だからSクラスへの移動も創設以来なのに。なんて残念な人達だろ。
「は?何、その目。言いたい事があるなら言ってみなさいよ。」
「いやー、こんな子供みたいなマネするなんて先輩方は残念な人達だなぁーと思いまして。」
「はぁ!?ふざっけんなよ!!私達はいつでもお前に手出せるの忘れてんじゃねーよ!!」
「ねぇ、ちょっとくらい痛い目見ても良いんじゃない?コイツなめてる。」
すると、先輩達はシメたとばかりに悪い笑みを浮かべる。
きっと誰かがそれを言い出すのを待ってたんだろうな。
これだから群れる女子は嫌いなんだよなぁ。自分1人じゃ何も出来ない。
「いいね〜。紅くんに見せられない顔にしてやろっかー。」
ニヤニヤしたままそう言った先輩は手を振り上げた。
私は目をギュッと瞑る。
すると、ほとんど誰も来ないはずの体育館裏に人影が現れた。
「なに…してるんですか?」
そこには、珍しく目を見張った水琴くんが立っていた。
ほぼ無表情の水琴くんのこんな顔はレアだね。
先輩は振り上げた手をさっと後ろに隠す。
いや、普通にもうアウトでしょ。やっぱりバカだったか。
「あ、えーっと、これは違くて……そう!美崎さんに友達になってってお願いしてたの!ほら、人前で堂々と言うのって恥ずかしいでしょ?」
いやいやいや、無理あり過ぎでしょ。
「そう…ですか。まるで先輩方が…大人数で…下級生をいじめているみたい…だなって…思ったので。僕たちこれから…Sクラスで授業…なので…美崎さん連れて…行って…良いですか?」
「え、ええ、もちろん。」
先輩は動揺しながらも私に顔を近づける。
「次からは調子のんじゃねーぞ、ブス。」
うわぁー。性格ブスにブスって言われたよ。なんかショック。
「じゃあ…行こ…美崎さん。」
「うん、今行く。」
そう言って私は水琴くんの後を追いかけた。
もちろん、背後の先輩に一礼する事を忘れず。
「助けてくれてありがと。でも、何でまたあんなところに来てたの?」
Sクラスの学寮棟へ向かう途中、私は水琴くんに尋ねた。
「あそこ…昼寝にいい。静か…だし…涼しい…から。」
なるほど。
水琴くんが時々昼休みに消えてるのは寝てた訳ね。
いや、まぁいつも寝てるけど。
どーりで、保健室とか探しても居ない訳だ。
「あの人達って…紅の…ファン?」
あーやっぱ、そこ突っ込んじゃうよね。
本当は言いたくないところだけど、助けてくれたのに言わない訳もいかないか。
私は気まずそうに頭をかいて話した。
「うん、そう。一般からSクラスに移動したのが気に食わないみたい。あ、紅先輩には言わないでね。心配かけたくないし。」
「……うん、わかった。」
それから学寮棟に着くまでは無言の時間が流れた。
でも、不思議と気まずいとは思わなかった。
たぶん水琴くんが昼寝出来なかったからか歩きながら寝てたからかな?
いや、もちろんSクラスが落ち着ける場所になってるってのもあるよ!うん!
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