第3話
私がSクラスに慣れてきた頃、一般からSクラスに移動した人は異例だったらしく、私も結構有名になっていた。
これが嫌だから入りたくなかったんだけどなぁ〜。まぁ過ぎた事を気にしても仕方ない。
うぅ、周りの視線が痛い……
そんな風に教室で物思いに耽っていると佐藤先生が私に手を振っていた。
「あーいたいた、美崎さん。理事長が美崎さんに用があると呼んでいましたよ?」
「えー、なんか怖いんですけど。私何かやらかしました?」
「さぁ?僕は何も聞いてないですけど、Sクラス入りに関する話だとは思いますよ?」
「そーゆー事なら安心です。ささっと行ってきますね。」
私は理事長さんに会うべく理事長室へ向かった。そう言えば、理事長って入学式以来見た事ないかも。
理事長室は黒の厚手の扉が重々しくて入るだけでも相当な勇気が必要そう。
私は一呼吸して扉をノックした。
コンコン
「どうぞ〜」
中から優しそうな柔らかい声が聞こえる。
私は扉を開けるとすぐに一礼した。
「失礼します。美崎杏奈です。佐藤先生から言伝を伺い参りました。」
顔を上げるとそこにはシックな家具が揃い、高級感漂う雰囲気。
思わず声を上げそうになる。うぁーお、高そう……
「硬い事は良いからそこに座りなさい。コーヒーで良いかな?」
理事長さんは私をソファーへと誘導し、コーヒー豆を挽く。
静かな空間にコーヒー豆を挽く音が落ちてきたみたいに心地よい。
それから10分ほどして私の座るソファーの正面に理事長さんが座った。
「待たせてしまったね。やっぱりコーヒーは飲む前に挽いた方が美味しいから。」
そう言ってカップを口元へ運ぶ。
その所作の1つ1つがとても綺麗でそれだけで絵になりそう。
私も真似してカップ口へと運んだ。
「あ、美味しい。酸味が少ないし、ほんのり甘いですね。ブラックでも飲めるんですけど、インスタントはやっぱり少し苦くてミルク入れちゃうんです。でも、コレはブラックでも飲みやすいですね。」
「でしょ?その歳でこの豆の良さが分かるなんて流石だねぇ。これから新しい豆を見つけたら美崎さんを呼ぶとしよう。涼介は味音痴だから。」
佐藤先生、味音痴だったんだ……
なんだろう。失礼かもしれないけど、ちょっとそんなイメージがある。
「私で良ければいつでもお付き合いしますよ。」
「お、やったね。美崎さん、学校生活がどうだい?楽しめてる?」
「はい。私は孤児院育ちで学校というものに通うのは初めてなので慣れない事や分からないところは多いですけど、早乙女先輩達も良くしてくれていますし楽しいです。」
理事長は満足気に頷いている。
まぁSクラスに入ったら一般クラスの人とは上手く馴染めなくなったのが少し寂しいけど。でも孤児院での生活に比べれば幸せそのものだと思う。
「私がこの学園を建てたのは『異例者』に学生生活を楽しんで欲しいからなんだよ。やっぱり能力があると、警戒心が強くなってしまって楽しめないからね。毎年中学3年生になる『異例者』のところにこの学園の招待状を送っているんだよ。流石に孤児院育ちの君の情報までは見つけられなくて送れなかったけどね。」
理事長のお兄さんは『異例者』だったらしい。
その経験を引き継いでこの若さで学園を建ててるんだから本当に凄い。それにこの学園の情報規制は本当に凄かった。
この学園の情報は国の中枢機関の人しか知らない。だから、この学園に来れる人は一般クラスの人であろうとエリートばかり。
しかも、卒業後は中枢機関の職に就ける。
まぁ情報流出の監視って名目だけど。そんな情報規制のかかったこの学園を私が見つけられたのは私の持つ能力をフルに活用したから。
きっと、それは理事長も勘付いてる。理事長に下手なはぐらかしは通用しない。
さて。どう言ったものか。
「別に無理に聞き出そうって訳じゃないんだ。きっと能力を使ったんだろう?情報流出した者のほとんどは始末されるからね。」
始末って……監視って名目じゃなったんだ……
いや、ある意味監視か。
エリートコースでラッキーって思ってたら命取りって事だね。
「入学式してすぐに寮生活になるから健康診断として血液検査をするだろう?あれで『異例者』かとかは分かってしまうんだ。だから、美崎さんが『異端者』なのもすぐに分かったよ。しかも能力3つ持ちのトリプルだって事もね。」
「‼︎」
思わず体が固まってしまった。
血液検査で能力持ちか判断できるほどの医療技術は無かったはず。
この学園が独自に開発したってこと?
それよりも問題は私がトリプルだってバレてるって事。
「3つのうち『創造主』あと『読心術』は分かってる。国で保護している『異例者』のデータと同じ遺伝子だったからね。でももう1つは分からなかった。国で保護していなかった人なんだろうね。ただその能力が何かを分からないままでもこの学園は美崎さん。貴方を全力で保護します。きっと特待生クラスの人も君の味方をしてくれる。だから有限の青春をどうか楽しんで欲しい。それを伝えてたくて今日は来てもらいました。」
そう言うと、真面目な話はもう終わったのかコーヒーを再び口元へ運んでいた。
私の能力は『創造主』と『読心術』と『脳内操作』の3つ。
『創造主』はイメージした物を作り出して出現させられるし、『読心術』は視界内の人の考えてることが読める。『脳内操作』は脳神経の全てをコントロール出来る。
例えば人の記憶を自由に操ったり、運動神経に働きかけて人外的な反射神経を出したり使い方は自由自在。
全部意識しないと使えないから、能力が勝手に使われてるなんて事はないけど。
始め2つもまぁ危険だけど、最後の1つは飛び抜けてる。
だから知られたら皆んなにどんな反応をされるか分からない。
それが怖くて仕方がない。前までは怖いなんて思った事もなかったけど。
たぶんそれほど私の中で皆んなは大切な存在になってるんだろうな。
それはなんだか少し嬉しいと思ってしまう自分がいるんだよね。
「能力というのはね、人並み外れた異次元の力だから怖いものだよ。それでも使い方さえ間違えなければ一生ものの人間関係を築いていける。それだけは覚えていて欲しい。それと、涼介は私の知ってる情報のほとんどを教えているからいつでも相談すれば良い。アイツは口が硬いから信じて大丈夫だ。」
って事は自分が隠してるつもりでも先生は知ってるかもしれないって事か。
「あ、そう言えば佐藤先生は椎名先輩が男だって知ってる風でしたね。」
生徒会の役割決めの時に私が初めての女子だからって言ってたし。
「そうだね。招待状を送る人は生前から戸籍で把握してるから男女なんて隠してるうちにはならないかもしれないね。」
そう言って理事長は笑った。
まるでイタズラが成功した子供みたいだ。
椎名先輩、貴方の秘密バレバレどころか面白がられてますよ……
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