第23話

 男の頭に打ち付けたのは、男が捨てた拳銃だった。鋼鉄の塊が頭に当たったので、男は俺の首から手を離し自分の頭を押さえた。

 俺は男の体を蹴飛ばし、距離を取る。喉をさすり、激しく咳きこんだ。目尻に浮かんだ涙を拭う。


「大丈夫?」


 エリーザさんが駆け寄り、俺の背中をさする。少し呼吸が楽になった。


「……死ぬかと思いましたよ」


 そう言って立ち上がり、銃を廊下の方に捨てた。


「……殺す…………殺してやる」


 呻くような声。男の方を見ると、狂気が宿った目で俺達を睨んでいた。


「貴様らの様な化け物など……死んだ方がいいんだ」

「……不死身だけどな」

「黙れ……。化け物がこの世にいるから……悪い事が起きるんだ……」

「……平安時代みたいな価値観ね」

「化け物など、消えてしまえばいい……何故それが解らないのだ!」


 とうとう男は泣き出した。つい一分前まで、俺を殺そうとした男のはずなのにこうしていると、哀れに思える。

 思えるだけだ。同情は出来ない……するつもりもないが。

 男の慟哭が寝室に響く。



 その後、警察がやって来て男を逮捕した。

 血で染まったシャツを着た俺は警官達は病院へ連れていかれ、エリーザさんは事情聴取の為、パトカーに乗せられ警察署に連れていかれた。

 銃で二度撃たれ、腹をメッタ刺しにされたにもかかわらず驚異的な速さで回復したせいで後も何も残っていなかったから警官は医者に、「何で連れて来たんです?」と聞かれていた。

 新しいシャツを渡され、着替えると背広を着た刑事に事情聴取をされた。

 質問は多岐にわたった。

 名前、年齢、職業などの基本的な物から、エリーザさんとの関係などの踏み込んだ物まで。

 全て正直に答えると、刑事は最後にこんな質問をした。


「……捕まったあの男は、君と君の彼女の事を『化け物』と言っていたが、それは、本当かい?」


 それを言った刑事の顔は、馬鹿にしているような、その発言を重要視しないことを物語っている。


「……化け物と人間の境界線って、何処なんでしょうね。……人間でも酷い事をすれば、化け物と言われますし化け物でも、良い事をすれば人間扱いされます。化け物か人間かの判断なんて、分からないですよ」


 俺がそう答えると、刑事は納得したように頷き大笑いした。色んな犯人を見てきた人だから、取れる反応だ。


 俺は化け物になった。けれども、人の心を失った訳じゃない。

 果たして俺は、化け物か人間か、俺にも分からない。

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