第22話
「エリーザさんに、手を出すな!」
俺は男の足を掴み、体重を掛けた。
すぐさま男は、俺の頭や背中に蹴りを浴びせてくるが足を掴む力を強くして耐える。
「小癪な!」
男は振りほどこうとするが、俺には離す気は無い。
「逃げて! エリーザさん!」
叫ぶ。けれども、彼女は。
「君も、逃げよう!」
そう言ってくれた。
「貴女だけでも逃げて! 俺の事はいい!」
「でも!」
「うるさいぞ! 人間みたいなことをほざきおって! 化け物の分際で、愛を知っているとでも言うのか!」
男が怒鳴る。確かに俺達は化け物だ。それでも、心を持っている。
いいか? テメェの前に居る彼女はなぁ! 自分が人間の血を吸い生きている事に絶望して、罪悪感から自ら死を繰り返していたんだぞ。苦しくて苦しくて仕方ないのにだ。
そしてついには、不死身の体でありながら死が怖くなったんだ。
確かに許されないかもしれない。でも、それを背負って懸命に生きているんだ。
俺はなぁ、少し前まではいじめられていたんだ。ある時、耐えられなくなって殴ったら俺だけが悪者になっちまった。
それでひねくれて世の中を斜に構えて見ていたのを、彼女と触れて人間の気持ちを少し取り戻せたんだよ。
彼女の正体を知っても、好きだったんだ。自分のちっぽけな人生の中で、一番の人間だったんだ。
これからも、君の隣に居たい。
そう互いに思えたことが、なりより嬉しかった。
――それをなんだ?
お前に何があったかは知らない。でも、そこまでする理由はなんだ?
化け物を心の底から嫌悪するその思いは、いったい何なんだ?
少なくとも俺達には関係の無い事だ。
何故嫌悪する?
何故、俺達の前に立つ?
「俺は! 彼女を愛したい! 邪魔すんな!」
渾身の力で本音を叫び、男を足を引っ張った。それでバランスを崩した男は倒れた。
「貴様ぁ……」
男は俺に矛先を変え、覆い被さった。男の手は、俺の首を絞めた。腕は投げ出され、中々動かせない。
「やめて!」
エリーザさんが俺から男を引きはがそうとしたが、突き飛ばされてしまった。
「な、にを……」
「黙れ。化け物。貴様らはなぁ、存在してはいけないんだよ」
「な、ぜ」
「教えたところで、貴様の行く末は変わらない」
遠のく意識の中、俺は硬い何かを掴んだ。酸素が無くなりかけた脳味噌は、それを男の頭に打ち付ける事を提案した。
最後の力を振り絞り、俺はそれで男の頭を殴った。
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