第21話
逃げ場は無い。
このまま廊下に出たところで、男とかち合う。どうせだったら、ここで構えておく方が幾分か気持ちが楽だ。
廊下の隅に積み重なった本の山を蹴り倒す音がする。
その音がする度、エリーさんの顔が曇っていった。俺も怖いが、立ち向かわなければならない。
そして、寝室のドアの前で止まった。
ドアノブがゆっくりと傾き、斜め四十五度で固定されドアが開かれる。
俺は唾を飲み込んだ。
ドアがストッパーに着く。やはり、そこに立っていたのはあの男だった。
男は俺達二人を見るなり、高笑いをしだした。
「やはり、ここだったか。愚かな奴らめ」
ひとしきり笑うと男は急に真顔になり、銃口をこちらに向けた。
「死ね」
そして粘ついた笑みを浮かべて、撃鉄を指で倒そうとした瞬間。
「なに?」
男の顔色が変わった。
視線の先には、エリーザさんが自分の手を傷つけた果物ナイフがあった。
嫌な笑みは、険しくなり拳銃を握る手は震えている。
「……小僧」
「……なんだ」
「貴様、その化け物の血を飲んだか?」
「……そうだ、と言ったらどうするよ」
俺が言い終えた瞬間、銃声が鳴り胸、心臓がある位置に穴が空いた。
物凄く熱く、死ぬほど痛い。
それでも、俺は意識を失うことなく男を睨んだ。次第に傷口が塞がっていき、遂には傷口が閉じたの同時に、銃弾が体からこぼれ落ちた。俺は同じ様な光景を見た事がある。昨日、エリーザさんが撃たれた時にも同じように傷口が再生した。
不老不死の化け物。
俺は、もう人間じゃない。
「……ククク」
男は俺を見て笑い始めた。
「死ねない体か……哀れな化け物共が……」
銃を捨てると、男はぎらついた眼でこちらを見る。
「こんな物役に立たん」
そう言って、腰の後ろから持ち手に禍々しい彫刻が施された刃渡り十五センチ程のナイフを出した。
「これで貴様らを、ぐちゃぐちゃのミンチにしてやる。その後、海に流してやる……二人共な」
目にはこれ以上ない程の憎悪が満ちている。
エリーザさんは怯え、涙目になっていた。俺は反射的に、男に跳びかかった。
俺が彼女を守る。そんな使命感にかられて。
男に掴みかかり顔を殴る。
しかし男は、怯まず俺の腹にナイフを何度も突き刺した。
不死身でも痛いものは痛い。耐えられず、床に倒れた。
「そこで寝ていろ」
腹の傷に蹴りを入れ、男はエリーザさんの方へ向かう。
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