第18話
翌朝。
相も変わらず、人間は朝になると目が覚める。
化け物になってもこの習慣は変わらないのだろうか。僕は、寝起きの霧がかった頭でそんな事を考えた。
ベッドから落ちる様に出ると、寝間着を脱いでハンガーに掛けてあったシャツを着た。少しでも、小綺麗な恰好をしておこうと思ったのだ。
おそらく今日ほど特別な日は無いだろう。
もう親は仕事に出かけたようだ。……ここのところ、僕を避けている感じがする。
当たり前と言えば当たり前だ。理由があると言え、同級生を殴り不登校になった息子に対してどう接していいか分からないのかもしれない。
もしくは、僕に愛想を尽かしているのか。どちらにしても、今日で終わる。
昨日の夜、エリーザさんと話したのだ。
不老不死になったとして、この町で暮らしていくのは無理がある。
遠く離れた土地でやり直したいと、僕が頼んだ。
それは逃げかもしれない。けれど、これが僕の、僕なりのケジメだ。
重ねた罪は消えず、記憶の底にこびり付いている。忌まわしい過去を忘れようとしても、ある瞬間に思い出す。
忘れられない。
どうしても忘れられない。
――それでいいのだ。忘れずに抱えて生きるのが、ケジメなのだから。
「よし」
短くも芯の通った声が喉から出た。
外に出ると、空は真っ青だ。照りつける太陽は定位置で地表に光を送っている。
昨日の今日なので、いつも通る道を避け遠回りしてエリーザさんの家に向かう。
ニュースでもやっていたがまだあの男は捕まっていないので、警察の方も警戒しているようだ。
昨日よりパトカーや警官の数が多い。なにしろ、国家権力に対して臆さずに銃を撃つ奴だ。
この町の警官を総動員しているかもしれない。
立ち向かえず逃げた僕に勝ち目は無く、早く捕まることを祈りあの男の陰に怯えるしか出来ない。
住宅街にある公園を突っ切ると、彼女の家の前を通る道路に出る。いつもなら幼子達のはしゃぎ声が聞こえる時間なのに、今日はやけに静かだ。
速いとこ通り過ぎてしまおう、そう思い駆け足で園内に立ち入る。行政の管理から外れたここは、草木は荒れ遊具は錆びだらけといった具合だが何故か子供達には人気なスポットだ。
公園の中ほどに進むと、生温かい風が吹いた。
一歩進んだ。
「……また会ったな」
その声を聴いた瞬間。嫌な汗が噴き出した。
目の前に立っていたのは、昨日の男だった。
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