第15話

 幸いにも家には誰もいなかった。


「上がってください。……親は仕事だから、帰って来ませんよ」

「……ありがとう」


 エリーザさんが玄関に上がると、僕は玄関に鍵を掛けた。

 これでこの家に入る時には音がするはずだ。鍵を壊すか、チャイムを鳴らすか、窓ガラスをブチ割るしか、部外者には立ち入る手段は無いし、両親が帰って来た時には鍵を開ける音がする。

 ……あの男が透明人間にでもならない限り、玄関を通ることは出来ない。

 リビングに入り、テレビのスイッチを入れる。

 バラエティー番組しかやっていない。

 情報は得られそうにない。携帯でネットニュースを見ようとした。


「……宮本君」

「どうしました?」

「えっと……その、シャワー浴びてきていい?」

「あっ……」


 乾いているとはいえ、彼女は血まみれ。着ている――いや、まとわりつかせている布切れにも血液が沁み込んでいる。

 金髪にも血がこびり付いている。

 スッキリしたいのだろう。


「えっと、その……タオルは水色のやつ使ってください。服はその……僕のTシャツと短パンでよければありますけど……えと、あと、下着は……その、我慢してください」

「……ありがとう」


 彼女は笑った。


「……風呂場はあっちです」


 照れた顔を彼女からそらし、廊下の奥を指さして言った。


「……ありがと」


 小走りで風呂場に向かっていく音を聞き、赤くなった頬を撫で改めて僕は携帯を見る。

 県内ニュースサイトを開く。一覧を確認するが、まだ発砲事件の見出しは無かった。

 けれど、警官に向けて銃を撃ったわけだからそのうちトップニュースになるはず。

 携帯をローテーブルに放り、ソファに身を投げる。溜息。そして目を瞑る。

 ……あの男は不老不死の化け物、いや魑魅魍魎すべてを駆逐せんとしているのだろうか。

 だとしたら、かなり厄介だ。

 僕みたいな一時の感情に左右され暴力に訴える様な人間と違い、何か人としての軸に化け物を憎むことになった経験がありそれ故に暴力を振るうようになった人種だろう。

 字面はおかしいが、真面目に悪人をやっているに違いない。


「……僕はどうすればいい?」


 逃げる?

 何処に? あの男は間違いなく僕達を追いかけて来るはずだ。たとえ地の果てか地の底に逃げ込んでも、あの男は凶弾の標的をエリーザさんから変える事は無いだろう。

 戦う?

 どうやって? 武器は?

 あの男みたいに銃を持てないし、僕は不死身じゃない。

 ……不老不死じゃない?

 僕の脳裏には、最低最悪でだけどそれでいてこの状況を打破出来る最高の方法が思いついた。

 けれども、間違いなくエリーザさんは猛反対するだろう。

 しかしいつかは決断しなければ、僕は死にエリーザさんは廃棄物みたいに埋められてしまう。

 あの男は決断する力を持ち、実行する武器も持っている。それに対抗するには、それを上回る覚悟と体力が必要だ。

 僕はただ、破滅の先で得た平穏に揺蕩っていたいだけ。

 その平穏を守る為に、平穏とは程遠い者になる。

 僕は不老不死の化け物になろうと思った。

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