第14話

「この子に……手を……出すな」


 血に塗れた金髪の隙間から覗く鋭い眼光。肉食獣の如く、低く唸るその様子はいつもの彼女からは想像できなかった。


「これはこれは……不老不死の化け物様のお目覚めですか」


 煙が立ち昇る拳銃を握り締め、少しばかり驚いた顔をして後、粘ついた笑みを浮かべて男は言った。


「エリーザ、さん?」


 呆けたように僕は呟く。その声に気付いた彼女は、微笑み一度僕を抱きしめるとゆっくり立ち上がった。

 全身血まみれでボロボロになった服を着た彼女の様子は、彼女が墓から起き上がった者であることを僕に思い出させた。


「その少年が来た途端、本気になったな」

「うるさい!」


 僕に対する感情とは真反対の思いをぶつける彼女は、髪を逆立て、歯をむき出しにし、目を見開いている。


「この子に、手を出すな……」

「知ったことか」


 男はもう一度撃鉄を倒した。


「貴様もそのガキも細切れにして、埋めてやる。特に貴様は念入りにな……二度と蘇ってくることが無いようにな!」


 鬼の形相で銃を握る男。僕を庇うように間に立ちふさがるエリーザさん。無力な僕は……何もできない僕は……ただ叫ぶことしかできなかった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!」


 頭を抱え、反射的に身を守る体勢になる。けれど、聞こえたのは銃声じゃなかった。


「そこで何をしている」


 顔を上げる。すると、銃を構える男の後ろに、紺色の制服を着た警官が二人いた。


「っち」


 男が舌打ちをして、警官の方を向くそして躊躇なく警官を撃った。


「邪魔をするな」


 鳴き声がうるさいカラスでも追い払うかのような発言。一般人が警官に向けるものではない。

 一人が肩を撃たれ倒れる。もう一人の方は突然の銃撃に呆然としていた。


「エリーザさん!」


 僕は叫び、彼女の腕を引っ張った。


「逃げましょう」


 我に返ったのか、僕の方を見て頷く。


「クソッ」


 また男は銃口をこちらに向けようとしたが。警官がホルスターから銃を抜き、上に向けて撃った。


「武器を捨てろ!」

「うるさいぞ! 何も知らないクセに!」


 僕らは男と警官が押し問答を始めたこの隙をつき、走り出した。


「止まりなさい!」


 警官が僕らに制止を呼びかけるが、無視をして土手の方に上る。


「待て!」


 男の声が聞こえる。何度も転びそうになりながら、必死になって走った。

 走っているうちに自宅の前にいた。僕は振り返る。

 誰もいない。周りに住宅から人の気配はするが、道路には誰もいない。


「助かった……」


 肩で息をしながら、腹から押し出すように呟く。

 久しぶりに全力疾走したせいか、足は痛むし喉には血の味が広がっている。

 エリーザさんも、その場にへたり込み荒い呼吸をしながら胸を押さえていた。


「死んじゃうかと、思った……」


 泣き声混じりのその言葉は、僕達がひとまず危機を脱したことを把握したと同時に、新たな脅威が出来たことを思い知らされた。

 

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