第13話
男が俺の顔を見た。
「化け物に血を与えていたのは、貴様だな?」
男の表情は一切変わらない。それ故に感情が読めない。けれどこの男が味方でない事は、何故か分かった。
僕は何を言っていいか分からず、口をぽかんと開けていた。
「……だんまりか。まぁいい。坊主、死にたくなかったら今すぐそこを退け」
訳が分からない。この男は何を言っている? そもそも何者だ?
エリーザさんがこんなことになっているのも、あいつのせいなのか?
それに……死にたくなかったら?
脳内が疑問符で埋め尽くされる。
「あ……あ、アンタは、いったい、な、なんなんだよ……」
震える声を喉から絞り出す。横目でエリーザさんを見たが、まだ目を覚ましそうにない。
「……儂のことか?……儂はそこにいる不老不死の化け物を人の世から消そうとしているだけさ」
「なんなんだよ……陰陽師? 神父? アンタ、エリーザさんに、何したんだよ……」
混乱した僕の呟きから彼女の名が出た途端、男の目がぎらついた。
「ほう……その女の名を知っているのか」
男は懐から古めかしい、回転式拳銃を出した。
「え?」
余りの出来事に、遂に脳は思考を放棄し裏返った声だけが取り残されたように口から漏れた。
「ほおっておけば化け物は発狂し、儂が来ることも無かった……なのに、貴様が血を与えあまつさえ化け物の存在を理解してしまうなんて!」
憎々しげな顔で怨み言を吐く男。その言葉に含まれる化け物への負の感情。見逃してくれなんて、言ったところでその通りにしてくれるわけがない。
「……まぁいい。貴様を殺し、あとでゆっくり化け物を始末すればいい」
銃口がこちらに向けられる。助けを請おうにも声は出ず、口がパクパクと動くだけ。膝がしきりに震え、立つのも難しい。
恐怖が僕を支配し、脳から危険信号が途切れることなく発せられる。
逃げろ逃げろと命令を出すが、体が言うことを聞かない。
「銀の弾丸だが、人間も殺せる。恨むのなら、化け物に情を持った自分を恨むんだな」
銃の撃鉄が倒された。僕には男がまるで、獲物をじっくりいたぶる肉食獣に見えた。
さっさと撃たず、恐怖を与えて絶望へと淵に引きずってくる。
「イヤだ……」
遂に立っていられなくなった、僕は地面にへたり込んだ。涙が溢れてきた。鼻水も垂れてきた。
「不死身の化け物なんかより、楽で助かる」
男は残忍な表情を更に凶悪にした。
「――――死ね」
叫び声をあげた。十六年の人生で一番の物だった。
まったく意味無いのに、目を瞑って腕でカードの体勢をとった。
だけど、何かが覆い被さった。それにコンマ一秒遅れて、破裂音がした。
痛みは無かった。
僕はゆっくり目を開けた。そこにはエリーザさんの体があった。僕にのしかかるようにいた彼女はいた。
肩口のあたりから血が流れていた。生々しい肉が血液と共に露わになっているが、恐ろしい事にみるみるうちに治っていく。
ビデオの逆再生の様に。これもまたゆっくりだ。傷口が塞がったと同時に、潰れた銀の弾丸が終わりを告げる鐘の如く、カラコロと音を立ててコンクリートの地面に転がった。
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