第11話

 外はすっかり暗くなっていて、季節の移り変わりを痛感させられた。

 僕は自転車を漕ぎボンヤリしていた。

 彼女の事、これからの事――そして、自分の事。

 僕には時間が無い。不登校になってかなり経つ、学校に行くかこのまま不登校を決め込み留年するか、学校を辞めるかの三つしかない。

 学校は、ペラ紙を何枚か出せば簡単に辞められる。だが、勇気を振り絞って学校に行ってやり直すか。

 ………何を?

 学校生活を?やり直して何になる?僕が殴った奴等に対する贖罪の為か?

 

「後悔……してねぇよな?自分」


 殴った事を後悔はしていない。

 学校に行かなくなったのは、ただ逃げ出したかっただけだ。ただそれだけのことだ。

 ………本当にどうしたらいいんだ。

 重い感情を吐き出すと、白くなって空中に紛れた。形容しがたい、もやもやとした感情が胃の中で渦巻き、こびり付いていく。

 そしてそれは、昼間に導き出した一つの事に結び付く。


「……僕が、吸血鬼になればいい。か……」


 けれど、決心は出来なかった。人間としての生を惜しんでいたわけでない。彼女の過去を聞いて、臆病になっていただけだった。

 自分に「他のもの全てを失ったとしても、彼女だけいればいい」と決心させれば、後は簡単なのに。


「エリーザさんは絶対に反対するだろうな」


 しかし、決断の時間は思っていたより早く来た。




 エアコンの稼働音だけが静かに響いていた。残り少ないコーヒーを、一息で飲み干しダイニングテーブルに突っ伏した。


「私の事が好き。か……」


 だが、彼はその時の事を覚えていなかった。おそらく朦朧とした意識の中、心の奥底にあった感情が漏れ出たのだろう。

 嘘をつけた状況ではなかった。つまり、あの発言は宮本君の本心……のはずだ。

 ……これまでも、私に好意を寄せて来た男性はいた。けど、私はその好意を受け取ることは出来なかった。

 化け物と人間。相成れない事は、私が一番わかっていたのだから。

 人の生き血を吸って生きる化け物と、添い遂げられるかと聞いたわけではないが結末は必ず、人間の死。

 私は永遠に生きなければいけない、しかし人間は永遠を生きられない。

 

「……どうしよう」


 宮本君は、生きて来た中で血を吸い私の正体が化け物と知っている唯一の人間だ。そして、全てを知ったうえで私と一緒にいてくれている人間だ。

 彼を失いたくない。そう思うのは、ごく自然の事だろう。

 

「ずっと一緒にいたいよ……」


 願望を口にするのは自由だ。これだけは、長い時が経っても変わりようがない事実だった。


ピーンポーン――


 突然、玄関のチャイムが鳴った。目尻に滲んでいた涙を拭い、玄関に向かった。

 宮本君だったら名乗るはずだし、この時間に客が来るとは思えない。宅配便を頼んだ覚えもない。

 不審に思いながらも、覗き穴で覗いた。

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