第10話
眠りから覚めると、毛布が掛けられソファーにそのまま寝かせられていた。エリーザさんは仕事をしていた。
「起きた?」
そう言って向かっていたパソコンから目を離し、こちらに微笑みかけた。
「ええ……」
ボーっとする頭を押さえ、テーブルにあったココアを一気に飲んだ。それは、思ったよりも冷めてなかった。時計の針は血を吸われた時からあまり進んでいない。
首筋には新しい絆創膏が貼ってあった。
もはや、日常の一部とかしたこの行為。それを彼女はどう思っているのだろう。勿論、彼女にとってこの行為は食事であり生きる為に絶対にしなければいけない事だ。
人間が日々の食事に対し、罪悪感を抱く事なんてほぼ無いだろうが彼女は違う。
常人では耐えきれない罪悪感を抱え、百年単位で苦しんできた。
今は僕という食糧がいるからこそ、平穏な生活が出来ているがつい最近まで彼女は、何も知らない人間を襲ってしまうかどうかの瀬戸際に居たのだ。
しかもこの状況も数々の偶然の上で成り立っている。
彼女の話を聞く限り、これまで血を吸って来た人間は大抵死んでしまう。ごく稀に、息がある場合もあるらしいが話を聞ける状態ではなく彼女もそのまま逃げてしまったという。
今回の様に逃げられる状況ではなく、なおかつ彼女に血を吸われて早く回復するなんて、彼女の長い人生で初めてらしい。
そして彼女の存在を受け入れ、こうして血液を提供している。
……これでいいのだろうか。僕はいい、この場で失うモノといえば精々自分の命ぐらいだ。けれど、これを続けて彼女はいいのだろうか。
不老不死の彼女と違って、僕は時間に限りがある。要は、僕はいつか死ぬのだ。
いや、死を待つ前に何かしらの理由で別れが来るのかもしれない。そんなリスクを互いに背負っている。
仮に僕が居なくなったとして、彼女の前にまた僕の様な人間が現れるかどうか。
絶対現れる保証は無い。長い目で見たら、現れる確率は高いがいつになるか分からない。
十年、二十年……百年。もしかしたら、もっとかかるかもしれない。
その間、彼女は……。
「……顔色悪いよ、大丈夫?」
「え?ああ、大丈夫です……うん……」
作り笑いで誤魔化したが、僕の脳裏にはある一つの考えが浮かんでいた。
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