第4話
久し振りの全力疾走。
肺が痛み、脇腹が悲鳴をあげる。
だが、止まるわけにはいかない。止まるわけにはいかないのだ。
藁にも縋る思い、いや、勘にほぼ等しい憶測なんて藁よりも弱いが縋らなきゃ、僕は本当に居場所を失くしてしまう。
怖いのだ。絶望の淵で見つけた希望が消えてしまうのが。
――あの人と会えなくなってしまうのが。
「ハア、ハァ……痛てぇ……」
エリーザのマンションに着いても、息は落ち着く気配を見せない。だが、痛む脇腹を押さえエントランスホールに入る。
しかし、エレベーターは全て出払っていてすぐにには来なそうだった。
「だっ、たら!」
ひりつく喉を、僅かな唾液で潤しながら必死に階段を駆け上がる。乳酸が溜まった足の動きが鈍くなり、痛みがふくらはぎが支配するも歯を食いしばり一歩一歩上がって行く。
エリーザさんの部屋の前に着く頃には、息絶え絶えになりその場に倒れ込んでしまいそうだった。
荒い呼吸を繰り返すが、一向に息は整わない。唾を何度も飲むが、渇きは癒えない。
だが。
気持ちは十分、落ち着いた。
意を決し、チャイムを鳴らす。
「エリーザさん! 僕です!健一です!」
返答は無い。
「何か、あったんですか? 僕が、何か、やっちゃいました?」
沈黙。
「僕、が…………」
次第に声が小さくなっていく。それに比例して、拳が硬くなってゆく。
落ち着いた感情はまた、荒波になり渦を巻く。
「……諦めきれるかよ」
一度は逃げた、受け止めきれず抗う勇気が無かった。けれど、今度逃げたら僕はきっと決定的なモノを失う。
勘が外れてたら、居場所を失う。けれども、ここで引き下がって失うよりかは気持ち的にマシだ。
沈黙を守る鉄戸。僕は一縷の望みを懸け、ノブに手を掛ける。
それは何の抵抗も無く開かれた。
「嘘だろ……」
思わず呟く。
「……エリーザさん、入りますよ」
明らかな不法侵入だが、溢れる気持ちに押される様に部屋に入った。
日中だというのに部屋は薄暗い。どうやら、カーテンが閉められているようだ。それにたった一日しか経っていないのに、空気が淀んでいる。
「エリーザ、さん?」
リビングの戸を開けた。するとそこには、ごみがぶちまけられていた。
「!?」
コンビニのおにぎりや、弁当、カップ麺のごみがそこら中に散らばっていた。
その量は尋常でない。常人なら、腹が裂けていてもおかしくない。
「何が……」
得体の知れない恐怖で一歩下がった。
すると。
ゴトン…………
重い何かが落ちる音が、寝室の方から聞こえてきた。
また荒くなってきた息を抑え、ゆっくりと寝室に向かう。
「入り、ますよ」
自分がこの部屋に入るのは初めてだった。
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