第1話

  彼女との出会いは、一か月程前に遡る。

 通っていた高校を暴力事件を起こして退学になり、アルバイトで日銭を稼いで家での存在意義を失うまいと邁進していた頃だ。

 イジメてた奴らに反撃しただけで、一発で退学された事。日に日に強くなる親の嫌味。馴染めないアルバイト先。

 いろんな事が重なって、心に積もったモヤモヤを消化できぬまま腐っていた時期でもある。

 唯一の心のよりどころは人気の無い公園の展望台だった。

 あの日も、僕はそこで缶コーヒー片手にぼんやりと町を眺めていた。他の場所には無い静寂と安寧。

 そして、ぼんやりとどうにもならない事を思いながらベンチに腰かけていると。

 が現れた。


 スラッとした手足、貧相でもなく下品でもないバランスの取れたスタイル。見とれてしまう程に美しい顔。そして、少しの風でもなびく程に丁寧に手入れされた長い金色の髪。

 綺麗で一目で外国の人だと思う風貌でありながら、ハリウッド女優や雑誌のモデルのような派手さは無く、水墨画のようなわびさびと上品さを持った佇まい。

 佇まいに混ざる何処か暗い雰囲気も、ミステリアスな印象を抱くには十分だった。

 最初に話し掛けて来たのが、どちらかだったかは覚えていない。

 何を話したもかも、薄っすらとしか覚えていない。

 覚えているのは、互いの名前を教えあった位だ。

 彼女の名前。エリーザ、エリーザ・ベートリバー。ヨーロッパの出身らしい。

 僕の名前を教えると伝えると、彼女は。


「いい名前だね」


 微笑みながらそう言った。その顔は、忘れかけていた感情を引きずり出した。

 会話は世間話から始まり、話は二転三転した末に僕の身の上話になる。

 誇張しなかったし、お涙頂戴の不幸話もしなかった。淡々と、僕の身にあった事を話したのだ。


「そっか……」


 僕が話し終えると、エリーザはそれだけポツリと呟いた。その声は、他の誰が掛けてきた声より、優しかった。


 

 

 

 

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