飢える者達の行方
タヌキ
プロローグ
暗い部屋に、女性のすすり泣く音が響いている。
……いや、血の足りない体でしかも頭を打ち付けた後で聞いているから、響いているように聞こえるのかもしれない。
声の主は、すすり泣きながら僕の体を抱きしめ、首筋にかぶり付き血を吸っている。
彼女の姿は今は見る影もなく、部屋の中で見ても輝いて見えたストレートの金髪は、ボサボサになり輝きを失っている。
Tシャツでさえ着こなしていたのに、今はヨレヨレになったパジャマをまとわりつかせている。
そして、見る者すべての心に残るであろう美しいその顔は、耐え難い衝動に歪み、涙と鼻水でグチャグチャになり、口周りは僕の血で汚れている。
不意に、首筋から歯が抜かれた。彼女の吸血衝動が落ち着いたのだろう。
「……やっちゃた…………」
しばしの沈黙の後、彼女が口を開いた、冷たくそれでいてどこか優しい声も今は、泣き声で枯れている。
「なんで? ……あんなに、君の事を拒絶したのに……」
僕は、血が足りず上手く回らない頭で考えて、言葉を絞り出す。
「……だって、いままで良くしてくれたのに……いきなり拒絶されたら気になるじゃないですか……」
言葉の通りだ、それに嘘をつく余裕は今の僕にはない。
「君を……傷つけてしまうかもと思って、だから……拒絶したのに……」
彼女は涙を流し、僕を傷つけたことに対する謝罪と後悔の念にかられている。
フローリングに投げ出された重い腕を、自分に残された僅かな力を振り絞り、押し倒す形でいる彼女の背中に動かした。
そして僕は、こう言った。
「大丈夫です……僕は……気にしてませんよ……」
この言葉と行動に、彼女は驚いたような表情をした。
抱きしめるとまではいかないが、自分の腕を少し動かし、形を作った。
これが、トドメになったのだろう。彼女は僕に返すかのように強く抱きしめ、火がついたように泣き出した。
「大好きですよ」
暗い部屋で僕は、吸血鬼に告白をした。
これは、愚者と孤独な吸血鬼の物語。
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