せん妄再び…じゃなかった

 前回、前々回と状況証拠に基づいてせん妄を疑ってきた。

 変化が急激なので、認知症ではないと思う。

 介護保険の更新の調査でも認知症は認められなかった。

 かと言って、現状を放置するわけにもいかない。

 強烈なせん妄の影に隠れて、認知症が忍び寄っているかもしれない。

 何より原因がわかるのなら、次の対応が出来る。


 母が消化器内科を受診している病院には、老年内科がある。

 以前は、父も受診していた。

 今は特に変化がなければ診察は受けていない。

 それでも診療内容は経験済み。

 だから受診するには最適だと考えた。


 掛かり付け医に紹介状の依頼をする。

 通院している病院でも、科をまたぐときには紹介状が必要になる。

 もちろん必要があれば院内で科を横断するともある。

 その時でも、医師から他の科の医師へ紹介状は、簡単だけど一筆ある。

 情報は院内で共有出来るので、本当に一筆。


 掛かり付け医に依頼した紹介状は、二日後に出来上がり、老年内科の予約を取りに病院へ行く。

 依頼しておけば、紹介状と同時に掛かり付け医が予約もとってくれる。

 おそらく普通はそうするのだと思う。

 でもウチの場合、スケジュール確認をしながら予約を取らなければならないので、自分で外来の受付に行った。

 無事取れた予約は四月の七日。


 しばらくは、深夜一時間半程ごとに起きて、母の見回り、トイレ介助はしなくてはいけない。


 そして、四月七日。

 父をデイサービスに送り出して、と言っても朝と夕ご飯の時は、身体が二つ欲しいあわただしさ。

 せん妄らしきものが出ている母は、待ってくれるという事を知らない。

 朝ごはんのコーヒーはコップに入っているので気が抜けない。

 父はおむつ替えをして服を着せ、車椅子に移譲させた後、薬を飲ます。

 あとは食事を渡しておけば、ほったらかしに出来る。

 薬を始めに飲ませるのは、最後の一口が飲み込みにくいから。

 薬を最後にしたら飲み込めない。

 玄関に吐き捨ててあることもあった。


 そんなあわただしい朝を過ごして、病院へと出かけた。

 残念なことに、桜はもうほとんどが葉桜。

 すぐ近くの県立病院へ車椅子を押していく。

 病院の入り口は今も厳戒態勢。

 体温を測り、手の消毒をする。

 母はこれも良く分かっていない。


 老年内科で問診を受け、血液検査と頭のCTを撮りに行く。

 血管が細い母の採血に、看護師さんが四苦八苦している。

 CTでは、抱え上げられて台に乗せられた母は、

「めちゃくちゃされた」

と、怒っている。

 膝も肩も関節の軟骨がないので、動かして擦れると痛がる。

 そこら辺は、看護師より介護士の方が手馴れているかもしれない。


 検査が終わってもう一度診察。

 血液検査の結果待ちがあるので、一時間ほど待ってからの診察になる。

 頭のCTには問題がなかった。

 一月の画像とも変化は無い。

 血液検査の結果は、せん妄らしきものの原因を浮かび上がらせていた。

 血液のミネラルバランスが異常。

 腎臓の機能にも異常な値がある。

 何よりも、カルシュウムの値が高かった。

 骨の異常を確認するために、もう一度CTを取りに行く。

 さっきは頭で、今度は胸。

 そしてもう一度診察室へ。


 胸のCTでも、異常は映らなかった。

 高カルシウム血症を引き起こすような、骨の異常は見つからない。

 腫瘍の骨転移は無かったのだろう。

 悪性リンパ腫なども、高カルシウム血症の主な原因になる。

 癌が高カルシウム血症の原因となる事が最も多い。

 その可能性を取り除いていく。


 検査中に老年内科の医師は、消化器内科の医師とも連絡を取って、入院中、外来での所見の聴き取りをしていた。

 つぶせる可能性はつぶして、原因を絞り込んでいる。

 結果、老年内科の医師は、今回のせん妄のような症状の原因を、薬による高カルシウム血症と結論付けた。

 母の、せん妄のような言動も、カルシュウムの異常値で十分説明が付く。

 むしろ、この数値ならそうなるのが当然だと言った。

 そして、このせん妄のような症状も、ミネラルバランスが正常値に戻れは、元に戻るとも言う。

 治療を担当するのは、腎臓内科が最適だと考えて、腎臓内科の紹介状を書き、このまま診察へ行くようにと言った。


 看護師に案内されて、腎臓内科の受診へ行く。

 実はこの日は腎臓内科の診察は無い。

 入院患者を診るために病棟に居た医師が、外来の診察室まで下りて来た。

 老年内科に持ってきた、私が書く短編小説よりも長編の、母の経過を書いた報告書や、処方薬局でもらった処方薬の説明書のコピーを見ながら原因を言う。

 骨粗鬆症の治療に、整形外科から処方されていた、ビタミンD補給剤。

 アルファカルシドール。

 カルシウム吸収を改善する、ビタミンDを補う薬と、薬の説明書には書いてあった。

 ビタミン剤だと思って、なめてたー。

 この薬がそんな悪さをするとは。

 いや、確かに、電子辞書の解説でも、副作用に高カルシウム血症と書いてある。

 腎機能の低下も書いてある。

 腎臓内科の医師の説明も、同じだった。

 母の症状は、アルファカルシドールの副作用と合致している。

 アルファカルシドールが原因の可能性が高い。

 あとは薬を止めて、様子を見ると言うものだった。

 治療法としては、生理食塩水とともに利尿剤を使用するものがある。

 とにかくおしっこで、出してしまうと言うもの。

 他には、骨吸収抑制薬や副腎皮質ホルモン剤を使うと、電子辞書には書かれている。

 骨粗鬆症がある、高齢の母には、おそらく穏やかな、原因になっている薬を止めて様子をを見るだけの治療になるのではないかと思う。


 帰宅して、薬を止めて様子を見る選択肢も提示された。

 母は、症状の中に味覚障害がある。

 ご飯を食べてくれない。

 栄養失調を憂慮した私は、医師にそのことを告げた。

 そういう事なら入院した方が良いだろうという事で、即日、緊急入院になった。

 そのあと手続きとか、準備で結局19時までかかる。

 飲まず食わずでトイレにも行けず。

 そして、家では使わない夜用おむつ、トレパン、尿パット、要介護者の入院の荷物は、大量で重い。


 ちなみに、アムロジピンは、何か作用をしたのかもしれないが、主犯ではなかった。

 年末の下血での入院の血液検査でも、じわりじわり高カルシウム血症が忍び寄っている事をうかがわせる、数値の上昇があった。

 この時はまだ治療をする必要がないレベル。

 それが、ここに来て大きく上がった。

 そして、カルシウムが引き起こす、神経障害が顕著に出た。

 そう、アムロジピンを再開する前から、魔の手は忍び寄っていたのだ。

 

 骨粗鬆症の薬を飲んでいる人にはあり得る話なので、介護をする人には、知っておいてもらいたい出来事だった。


 ビタミン剤にも気が抜けない介護離職者たちにベーシックインカムを。

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