救急搬送で入院

 2020年、年も押し迫った26日の朝。

 父のおむつ替えから始まった、デイサービスの送り出しをしている最中、母がポータブルトイレを使っていた。

 

 膝が痛くて立ち上がれないと言うので、パジャマのズボンを上げる介助をしていると、

「血が、血が付く」

と言い始めた。

 順番に整理をして話を聞くと、血便が出たと言うのだ。


 ポータブルトイレの中のバケツを確認してみると、セッティングで溜めている水が真っ赤に染まっていた。

 とりあえずトイレに流しながら確認していると、ゼリー状、ヨーグルト状の血の塊が大量にあった。

 

 塊だという事は、腸管内の出血が疑われる。

 何よりも量が多い。


 土曜日。

 開業医の医院は開いているが、原因を調べるための検査が出来ないので、結局は紹介状を渡されるだけだろう。


 県立の総合病院なら消化器内科の担当医が居る。

 一か月ほど前にも、血液検査と造影剤を使ったCTの検査をしたところだ。

 比較するためのカルテがある。


 ところが土曜日は休診のためか、総合に電話をしても誰も出ない。

 救急車を呼ぶ事案かアドバイスをしてくれる、案内と言うのをよく聞くので、探したが、いくら探しても見つからない。

 最終手段として、119番に電話して、案内の電話番号を訪ねたのだ。

 我ながら暴挙である。

「当県にそのような案内はありません」

 オペレーターの女性は困ったようにそう言った。

 そのまま、現状の下血の状態を話した。

 母には、熱やお腹の痛みはないし、意識もはっきりしている。

 ただ、出血量が多いのだ。

 

 ある程度話を聞いた後、オペレーターは言った。

「今救急車をそちらに向かわせているので、住所の確認をさせてください」

 どうやら救急車を呼んでもいい事案らしい。


 ただ、ポータブルトイレの血の塊を流してしまったのは、まずかったらしい。

 残っていないと告げると、オペレーターは残念そうだった。

 少しずつ流しながら、バケツの底に溜まった物を確認したので、すべてトイレに流してしまった。

 ただ、細かく観察はしてあるので、状態は説明できる。


 電話を切ったら準備を整え、玄関先で救急隊員の到着を待った。

 救急隊員に、下血の状態を伝える。

 県立総合病院に、消化器内科の担当医が居ることを伝え、診察券を渡した。

 隊員が総合病院に連絡をして搬送が始まった。


 母は三年ほど前にも下血で受診している。

 その時は母が検査を拒否したので、点滴だけで帰って来た。

 今回も処置のみで返されることも想定して、母の車椅子も救急車に乗せてもらった。

 車椅子なしでは母は移動できない。


 病院に到着すると、救急隊員や病院スタッフと共に母は処置室に入っていたが、私は入り口で足を止めた。

 今はコロナ禍。

 入って来てくれと声をかけられなければ、うかつに入る訳にはいかない。

 警備員に案内されて、車椅子と共に待合室に回った。


 血液検査、レントゲン、血便の確認などそれなりの時間がたった後、医師が呼びに来た。

 処置室に案内されて説明を受ける。


 私が朝見た限りでは圧倒的に赤い鮮血だったが、処置室では黒い血も確認したと言う。

 赤い血は大腸からの出血の他、痔などもあるが、黒い血や便は、胃や十二指腸からの出血がうかがえる。

 潰瘍や癌の疑いがあるのだ。


 ただ、母の場合は一か月前に消化器内科で造影剤を使ったCTを受けて、異常は見つからなかった。

 もし癌があったとしても、ごく初期だと思う。


 それよりもやっぱり出血が多い。

 血液検査でヘモグロビン値が一か月前よりもワンポイントも下がっていた。

 ちなみにヘモグロビンは、貧血の指標である。

 女性の下限が11.6g/dLのところ、一か月前に10.~しかなかったのが、こんかい9.~、ほぼ一ポイント下がっていた。

「一ポイント下がると言うのは、かなりの出血量がうかがえます」

 医師は看護師に入院病棟への母の移動を指示した。


 病棟に上がってからは、書類に記入、署名をして私は、荷物を取りに帰った。

 どうやら消化器内科の担当医は病院に居たらしい。

 母の病室に来て今後の方針を決めていた。

 荷物を持って病室に戻った時には、今後の方針の書類と検査の同意書が用意されていた。

 同意書に署名をするのに特に説明はいらない。

 母と私の担当医は同じ医師で、これから受ける胃カメラと大腸カメラは、私自身がもうすでに受けている。

 大腸カメラにいたっては、癌の手術含めて六回はやったおなじみの検査だ。

 同じ説明を何回聞いた事か。


 同意書を書き上げて渡した看護師は、

「ちょっとお待ちください」

と言った。

 ちょっとがだいぶになり、いつまで待っても誰も来ない。

 もう十七時半だ。

 コロナ禍でそもそも面会時間と言うものがないうえに、荷物の受け渡し時間の十七時も過ぎている。

 さすがにおかしいのでナースステーションに行って聞いたら、ナース間でひと悶着あったうえで、私が待つ理由は一つもなかった。


 あと、リハビリテーション科はそれぞれの状態に合ったベッドや補助器具があった。

 それは当然なのだが、消化器内科の病棟には無い。

 ほぼ、立って歩けるか寝たきりの二択だ。

 要介護者の身体能力が落ちないように、リハビリテーション科並みの資材を、病院内で融通し合ってほしいと思う。


 病室にポータブルトイレは用意してもらった。

 帰り際に母がトイレに行きたいと言い出した。

 トイレに連れて行くには、点滴が邪魔になる。

 血管が細くてもろく、針を刺すだけでも一苦労だったのに、ずれたり外れたりしたら一大事である。

 用意してもらったポータブルトイレを使う事にした。


 水が張っていないので看護士さんに聞いたら、そのまま使っていいという事なので、母の介助をする。


 まだ、下血は治まっていなかった。





 よく27日、担当医から電話があった。

 

 三年ほど前にも下血をした事や、今までの経過から考えての予想は、憩室からの出血。

 憩室が炎症を起こして出血を起こしているのだとみているらしい。

その裏付けなのか、今日は昨日より出血は減ったらしい。


 大腸の憩室と言うのは、カメラで見ると小さな穴が開いているように見える。

 もちろん貫通はしていないが、ツボ状の窪みが有る。

 これがあると検査で医師から

「加齢です」

と言われる。

 私にも盲腸の入り口辺りに、六つほどある。

 憩室からの出血は、割と聞く話だ。


 前回は母が断ったので検査は見送ったが、今回は状況が変わっているので、私の同意で検査をすることになった。

 あと、輸血もするらしい。

 医師の説明では、このまま貧血状態が続くのは心臓に負担がかかって、心臓に悪影響なのだそうだ。

 心臓が弱ってしまうのを、輸血で阻止すると言うのであれば、提案に乗るしかない。


 ちなみに、前回の入院でせん妄が出ていたことを告げ、またせん妄が出た時には、安全のための機器をつけることの同意書にもサインをした。



 年末年始もない介護離職者たちにベーシックインカムを。

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