ケアマネージャーにケリをつけろ

「ケアマネージャーに気をつけろ!」で、私の心配までしてもらったケアマネージャーは、やっぱり替えた。

 ケアマネージャーと言うよりも、支援事業所自体を替えたのだ。


 父は、二度目の大腸癌の手術で、人工肛門になった。

 人工肛門やストマーのケアは、介護事業所では看護師資格がなければしてはいけない。


 母は、手術後の骨密度の検査で、結果がよくなかったので、家で私が、カルシュウム剤の注射をすることになった。

 インスリン注射と同じ、押し当てるだけの注射器とは言え、やはり事業所では、看護師資格が必要だ。

 ちなみに、通所しているデイサービスでは、投薬の管理も看護師がしている。

 もしかしたらこれも介護職員では出来ないのかもしれない。


    母が退院して帰ってきて、やるべきことを整理していると、じわじわと医療行為が増えている事に気付かされた。

 それと同時に、もう高齢者なんだなと実感した。


 これから介護をしていく上で、医療のウエイトは増していく。

 そうなるとケアマネージャーにも、地域医療との連携や医療の知識が欲しい。

 看護師資格を持ったケアマネージャーに担当してもらえなくても、せめて事業所内に看護師資格を持ったケアマネージャーが常駐で居て、担当のケアマネージャーのサポートが出来る体制は欲しい。


 そこでもう一度依頼している介護支援事業所の事も調べてみた。

 前任が病気療養になり、新しく担当になったケアマネージャーは介護福祉士資格のケアマネージャー一年未満。

 そしてもう一人の所属ケアマネージャーは、介護福祉士資格の五年未満。

 いつの間にか、この二人だけになっていた。

 これでは、ベテランのキャリアも、異なる専門資格の知識も望めない。

 一年未満の新人担当ケアマネージャーに、何のサポートも望めないのだ。

 だから容赦なく、新人ケアマネのデメリット、小規模事業所のデメリット、遠方の事業所のデメリットが噴出する。

 ウチにとって、継続で担当を依頼するメリットが、何も無い。

 リスクしか無いのだ。


 そもそも、元から遠方の事業所だった訳ではない。

 最初は近所の事業所だった。

 担当のケアマネが独立するので担当者が変わった。

 事業所のケアマネが全員辞めるので、事業所が変わった。

 すべてケアマネージャーの都合だった。

 そして、気が付けばえらく遠い事業所になっていたのだ。

 その事についてウチに来てくれている訪問介護の人は言った。

「ケアマネージャーが替わるお家は、よく担当が替わってるわ。変わらないお家はずっと同じ人なのに」

 どうやら、ケアマネがころころ替わる家と、安定している家と、二極化しているらしい。

 ウチは替わる方だ。

 今回初めてウチの希望で替えた。

 それまで、七回はケアマネ側の都合で変わっている。

 今回位、こっちの意思で替えたっていいのだ。


 と言うか、近くの介護支援事業所に、引っ張り戻さないと、まずい。

 もう、決断のタイミングなのだ。


 でも、調べてみると看護師資格を持ったケアマネは、結構少ない。

 ちなみに医師にもケアマネの受験資格が与えられているのだが、元医師のケアマネは何か嫌だ。

 とりあえず、何か所かに電話で確認した。

 関わりがある事業所で看護師資格を持ったケアマネが居るのは、訪問介護で来てくれている所、一か所だった。


 口コミが欲しいので、訪問介護が来た時に聞いてみた。

 部署が違うので、あまり詳しい事は分からなかった。

 それよりも、父が通所しているデイサービスの代表が、お勧めを出してくれた。

 交流があるらしい。

 そのデイサービスと、介護支援事業所は目と鼻の先にある。

 ウチからでも歩いて行ける距離だ。


 まず、意中の介護支援事業所に電話をかけて、引き受けてくれるかどうかの確認をする。

 ウチは、この会社の訪問介護を利用しているので、全くの一見さんと言う訳ではない。

 訪問介護からの紹介を伝える。

 事業所の代表に電話をつないでもらう。

 実はここの代表が、看護師資格のケアマネージャーなのだ。

 まずは、ケアマネージャーと同時に、介護支援事業所を変更しようと決断した経緯を説明する。

 ケアマネ側の都合で、ずいぶん遠方の事業所になっていた事。

 それにより、地域との連携が取れていない事。

 経験の浅い介護福祉士だけの事業所になっている事。

 これからの介護を見据えると、地域医療との連携、またケアマネにも医療の専門知識を求める事。

 などを説明した後、デイサービスの代表の推薦も付け加えた。

「それじゃあ、引き受けない訳にはいきませんね」

 看護師資格の代表は、定員いっぱいで担当は出来ないという事だった。

 准看護師資格のケアマネは、辞めていなかった。

 それでも、担当ケアマネで対応しきれない所、特に他の専門資格の知識については、事業所として担当のサポートに入ると言ってくれたので、その事業所に変更する事にした。


 変更するにあたって、特に私がした事はない。

 新しく担当してくれるケアマネなどが、引継ぎをしてくれた。

 とは言え、私も前担当ケアマネには連絡位は入れた。

 営業が始まった時間に事業所に電話を入れたのだ。

 だが、事業所には誰も居ず、もう一人の所属ケアマネに電話が転送された。

 本来出勤しているはずのケアマネが遅刻なのか、まだ事業所に居なくて、自分の所に転送されていると言う説明からいら立ちが伝わって来る。

 前々から先輩ケアマネの新人に対するいら立ちは感じていた。

 分からないでもない。

「折り返し電話させましょうか」

 と言われたが、私は病院に出かける直前。

「ケアマネージャーと事業所の変更をしたので、引継ぎをお願いしますとお伝え下さい」

 伝言だけをお願いした。

 

 十一月の事だったが、母が入院中にストップしていた定期検査や通院が、退院した事で再開した。

 病院スケジュールでカレンダーは埋まっている。

 医師達は気を使って、検査結果を聞くだけの通院には母を連れてこなくてもいいと言ってくれた。

 それでも、私は病院に居る。

 家で二回ほど電話が鳴ったが、母は出れないので、誰からの電話かは、分からない。

 伝言以来、前任のケアマネからの連絡は、ない。

 もう二度と連絡はないだろう。


 私は、子供の頃から、同徐脈と言う心臓病がある。

 癌の手術もした。

 十年に一度くらい、軽い脳梗塞のような症状がある。

 介護に疲れたので自殺しようとは思わないが、年齢的にも、うっかり死んじゃうリスクはあるのだ。

 コロナ感染したら重症化のリスクもある。

 ケアマネを変更しようと思った最大の原動力は、そこにある。

 私が死んだ場合に、後の介護ができるだけスムーズに移行出来るように、今整えられる体制は、整えておきたいのだ。

 二人しか居ない小規模事業所の、ケアマネ一年未満の新人には、うちの状況は手に負えない。

 そう判断したのだ。


 介護で終活をしなくてはいけない介護離職者たちにベーシックインカムを。

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