15 鎮魂


               *


 遠くで、大気を揺るがす衝撃音が轟いた。隕石でも墜落したかのような。 

 気がつくと草むらにいた。視界いっぱいの夜空。どこかの山上だ。房江とヤブキと仲嶋が、周りに倒れている。

 強大な〈力〉が行使されたのだ。複数体を遠距離に跳ばした。

 わたしの胎児がしたことだ。畏れに似た思いを、満裡は我が子に抱いた。

 あなたはレクスに関わることになる——房江の言葉が蘇る。満裡は確信する。

 この胎児こそがレクスだ。冥種の新たなレクス……

 房江は息絶えていた。閉じた目も口元も穏やかだ。為すことを為したという顔をしていた。涙が溢れる。それはボタボタと房江の顔に落ち、貼り付いた血糊を洗った。

 呻き声が聞こえた。ヤブキだ。生きている!

 満裡はにじり寄った。

「ヤブキくん! わかる?」かぶさるようにして、呼んだ。

「……どうなった?」満裡を見上げる。「怪我は、ないか?」

「わたしは大丈夫」

「よかった」目の光が遠のいてゆく。

「いやだ。死なないで、ヤブキくん。死んじゃったら、なんにもいいことなかったじゃない!」

 撃たれた腹部は血まみれだ。望みはない。

 ヤブキの手が上がり満裡の頬に触れた。その手を両手で包み込んだ。

「わたしを守ってくれた。ヤブキくん、強い」

 ヤブキの唇が笑った。

 満裡は包んだ手を握りしめた。

「ネム……」見つめてくる。が、目の焦点はすぐにぶれる。

 とっさにヤブキの唇を吸った。口腔に、微かな息が揺れている。だがそれは、ゆっくりと、蝋燭の火が消えるように失せていった。

 光の消えた目を満裡は掌で閉ざした。額に乱れた髪を直してやる。

 逝ってしまった。わたしの兵隊さん……

 仲嶋が半身を起こしていた。房江とヤブキの姿を悼むように見つめている。「何が起きたのか……訳がわからない。とにかく移動しましょう。町に出てネットワークに支援を求めます」

「この人たちを残していけない」

「無論です。すぐに回収を寄こします。やつらの標本にはさせない」タブレットのGPSで座標を確認しながら、彼は言った。

 遠くでサイレンが聞こえる。衝撃音の聞こえた方角から。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る