第19話 暴風母
玄関を出ると、母さんの横に由愛が立っていた。
「あ、岩永さん……。おはよ……」
3日目にもなると、挨拶では緊張しなくなってきたな。いや、今は母さんがいるからか?
「あ、おはよう」
おい、由愛さんや。なぜ君はそんなに平然としていられるのかね?由愛にとっても母さんの出現は予想外ではないのか?
「ちょっと、卓!あんた、岩永さんって、それはないでしょう?昔みたいに名前で呼んであげなさい。由愛ちゃんだって、そのほうが良いわよねぇ?」
ちょっと母さん!俺が今日、これから頑張ろうとしていたことを先回りしないでくれ!っていうか、ここでもし由愛が嫌だとか言ったら、俺は泣くぞ?
「そ、そうですね。あの、卓くん?」
~~~~~っ!ゆ、ゆゆゆ、由愛が、お、俺のことを、む、昔みたいに、す、すすす、卓くんって……!
……って、落ち着け俺!俺だって、返さないと!
「あ、あぁ……。……ゆ、ゆ、由愛?」
言ってしまったぁ~!母さん、そんなにニヤニヤとこっちを見るんじゃない~!羞恥心で死にたくなるから!
そして由愛。そんな微妙な反応はやめてくれ……。まじで不安で心臓が張り裂けそうだから……。
「由愛ちゃん、やっぱり名前で呼んでもらったほうが良いわよね?」
「は、はい。そうしたいです。いいかな、卓くん?」
そんなキョトンと俺を見ないで。そんな可愛い顔を見せられたら、断れるわけがないじゃないか……。
「も、もちろんだ。その、由愛……」
「うん……」
なんだこの気まずい空気は!そして母さん、いい加減にゴミ捨てに行ってくれ!いつまで俺たちを監視するつもりだ!
「そ、それじゃあ、由愛、先に行けよ」
「う、うん。そうさせてもらうね」
ふぅ……。とりあえず嵐は通り過ぎたか……。なんか、予想外のことだらけで緊張とかそういうレベルじゃなかったわ……。
ところが、一筋縄ではいかないのが、我が母なのである。
「あら?二人とも同じクラスでしょ?だったら二人で行きなさいよ!学校での話とか、いろいろしながら行けばいいじゃないの!それに卓。最近、通勤電車で痴漢が増えてるのよ?由愛ちゃんをそんな危険なところに一人で行かせていいわけ?」
頼むから母さん、これ以上陰キャボッチな俺をいじめないでくれ……。正直、今だって朝からどっと疲れてすぐにでもベッドにダイブしたいんだから……。しかも、危険っつったって、由愛だって毎朝一人で行ってるだろ?
「あんた、逆らったら来月のお小遣いはないからね」
ひぃっ!な、なんで?俺がいけないの⁉で、でも、小遣いが貰えないのはきつい。ラノベが……。って、今はそんなことより由愛だ!本当に俺と一緒に登校しても大丈夫なのか?
「えっと、ゆ、由愛?お前は俺が一緒に登校しても平気なのか?」
よし、由愛。ここでの返事はノーが正解だ。間違っても首を縦に振ることがないように。うん?まて。なんでそんな上目遣いをしてくるんだ?や、やめろ!そんな視線を向けられたら、俺は……!
「あ、あの、私も卓くんと一緒に、学校行きたい。その、ダメかな?」
「もちろん一緒に行こう」
はぁ……。誰にも見つかりませんように……。
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