第18話 名前で呼ぶ!

 そして、作戦決行の朝……。


「ふぅ……。やっぱり緊張する……」


 さっきから心拍数がどんどん上がっていっている。8時まで後15分。もう何度もしたシュミレーションをまた頭の中で繰り返した。こうでもしないと不安で不安で仕方がない。


 まず、玄関を出て、いつものように挨拶をする。そして、まさか名前を呼ばれるなどとは考えてもいないであろう由愛に、後ろを向いた瞬間に名前を呼ぶ。


 そう、これだけ聞くと何も難しくないし、失敗のしようがなく思える。でも、大前提として、何年も喋ってなかった相手にいきなり名前で呼ばれて、由愛はドン引きしないかという問題がある。もしそれで拒絶されたら本末転倒だ。


 ただ、それを免罪符にやらないというわけにもいかないわけなので……。まじで怖い。由愛に、今はどうか分からないけど、嫌われてしまったらもう生きていけない……。はぁ……、緊張する……。


 深呼吸をして、ぐんぐん上がる心拍数を何とか落ち着けていると、窓越しの隣の部屋の電気が消えた。慌てて時計を見ると、もう8時になるところだった。


 今の今まで落ち着けていた心拍数は一瞬で跳ね上がり、今にも逃げ出したく思ったが、そういうわけにもいかない。


「卓~!もう8時よ~!」


 母さん、今日に限って、そんな余計に緊張するようなこと言わないでくれよ……。


「う、うん!もう行くから!」


 急いで玄関まで行って、俺はまた固まってしまった。なんと、母さんがごみを捨てに外に出る所だった。


 別に、今までだったら気にも留めず、ただ俺も出て行っただけだっただろう。ただ、今は違う。玄関を開ければ、隣の家からは由愛が出てきてしまうのだ。俺たちの両親はどちらも俺たちがあまり喋らなくなったのは知っているが、ここまでこじれていることは知らないため、そんな状態の母さんが由愛に会ったら……、


「あら!由愛ちゃんじゃないの!おはよう。ちょっと、卓~!あんた、そんなところに突っ立ってないで、早く来なさいよ!由愛ちゃんと一緒に学校に行けばいいじゃないの!」


 時すでに遅し。母さんは案の定、家を出るタイミングが重なった由愛を見つけて余計な提案をしてきた。なんで今日に限って……。


 もう俺は、緊張などという言葉はとっくに通り越して、全身から絶望感を漂わせながら家を出た。







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更新遅れて申し訳ないです!土日は連続更新できると思います!

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