第15話 新たなる挑戦

『Yさん!ついに俺も、自分から挨拶できたよ!相手も返してくれたし、これでようやく一歩前進って感じだと思う!』


 その日家に帰ると、朝のことの達成感が湧き上がってきて、俺は意気揚々とYさんにメッセージを送った。


『おめでとう、スグ!やっぱりスグは、やればできるんだよ!良かったね、スグ!』


 Yさんからすぐに返事が返ってきた。チャットアプリを介しての会話だけで、お互いのことなどほぼ全く知らない赤の他人の成功を、こんなにも自分のことのように喜んでくれるなんて、Yさんは本当にいい人なんだろう。


 ……ちょっとだけ、Yさんに好かれるやつが羨ましく思ってしまう。


『ありがとう!Yさんは、今日はどうだったの?』


『私は現状維持かな?あ、でも、今日はあっちの方から挨拶してくれたんだ。スグとおんなじだね』


『そうなんだ!Yさんもいい感じなんだね!』


 俺には恋愛ってものがさっぱりだから、基準ってものは分からないけど、挨拶をしあうっていったら、相当いい感じなんじゃないか?


 ……あ、待てよ?でもそれだと、俺と由愛もいい感じってことになってしまうか。それはなさそうだしな……。やっぱ、挨拶くらいはして普通なのか?


『お互い、上手くいくといいね!それでさ、次のステップを考えたんだけど、』


 え?もうですか?っていうか、これこの前の流れ的に、一緒に登校じゃね?え、まじで無理よ?逃げられるし……。



『名前呼びにする!とかどうかな?』



 あっ、登校じゃないのね。ならちょっとだけ安心……でもないな、これは。名前呼びだと?最後に由愛の名前を現実で呼んだのは、5年生だぞ?そこから5年。全く会話経験すらないこの俺が、いきなり名前呼びだと?


『流石に俺はまだちょっと早いと思うんだけど……。もうちょっと時間を空けたほうがいいんじゃないかな?』


 俺はチキンなんです……。だから、いきなり由愛を名前で呼ぶなんて、できっこないんですよぉ~。いくら頭の中で由愛を連呼してたって、実際に面と向って言うのとは比べ物にならないんですよぉ~。


 しばらく時間が空いて、Yさんから返事が返ってきた。そこには……、


『スグって、ヘタレなんだね』


 え?Yさん?俺の反応って、普通じゃないんですか?っていうか、Yさん絶対、恋愛初心者じゃないでしょ!いきなり名前呼びまで発展させるなんて、絶対慣れてる人でしょ!




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