第6話 俺の恋愛相談
『実は、このアプリに登録したのには、ある事情があって……』
『女の子との会話に慣れるため、じゃないの?』
『そうしようと思ったきっかけっていうか、そういうのがあるんだけど……』
Yさんからの返信はない。これは俺が話し始めるのを待っているようだ。初対面というか、そもそもあったことのない人に自分の恋心について打ち明けるのは少し抵抗があったが、なぜか俺はこの人には話したいと思った。
『実は、俺、ずっとある女の子のことが好きなんだ。その子は俺とは幼馴染で、小学校のころまではいつも一緒に居たんだけど、いつの間にか彼女はどんどんキラキラ輝いて行って、対して俺は根暗なつまらないやつのまま成長しなくて、それでいつのまにか、自分はこの子と一緒にいるべきじゃないと思って離れたんだ。中学に上がると同時に彼女に話しかけることをやめて知らない人のふりをした。高校も一緒だけど、まだ一回も喋ってない。それでも、彼女が好きな気持ちに諦めをつけることが出来なくて、それで自分を変えたくてこのアプリを始めたんだ……』
思ったよりもずっと長文になってしまった。自分の気持ちを言葉に起こして綴るのは難しい。送るまでに随分と時間がかかってしまったけれど、彼女は見てくれているだろうか?
もしかしたらもう落としてしまったかもしれないと思ったが、しばらくして彼女から返信が来た。
『一人称、俺なんだ?』
え……そこ……? あんなにいっぱい送ったのに、気になったのそこなの? いや確かに話しやすいようにいつもみたいに俺に変えたけどさ、そこはスルーでいいんじゃないの?
『ははは……。普段は俺って言ってるから、話しやすいように変えたんだけど、変だったかな?』
『いや、そんなことないよ。ただちょっと面白かっただけ』
一人称を変えることがそんなに面白いのか。まぁいいや。深くは考えないでおこう。
『それで、スグの恋の話だけど……私はスグって、とってもすごいと思う。だって、普通はいくら好きだからってそんなに自分を変えようと動いたりしないよ? 本当にその子のことが好きなんだって伝わってくる』
そう言ってくれて、なぜだかとても救われた気がした。自分のやっていることは間違ってないと言ってもらえたような気がして。でも、別に俺はすごくなんてない。たまたま由愛の好みのタイプを盗み聞きして、それにちょっとでも近づきたくてやってるだけなんだから。
『ありがとう。でも俺は、強くなんてないんだ』
『そんなことないよ。スグはとっても強い。私とは全然違うよ』
そう言う彼女にもまた、なにか悩みがあるんだろうか?
『Yさんも、何か悩んでるんじゃないの? 俺でよければ、話聞くよ?』
自分だけ聞いてもらって、彼女の事は放っておくなんて出来っこない。彼女の話を聞いて、出来ることなら力になってあげたい。
『ありがとう。スグって、とっても優しいんだね。じゃあ、聞いてもらおうかな……』
そう言って、しばらく俺たちのチャットは無言状態になった。
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