第4話 私の好きな人

【由愛視点】


 私は岩永由愛いわながゆめ。私には幼馴染がいる。といっても、今はもうすっかり離れてしまって、昔みたいに一緒に遊ぶこともないんだけど……。


 私の幼馴染は有村卓ありむらすぐるという。彼は普段は暗い感じで大人しそうな感じだけど、実はとっても優しいの。6年生になって、段々二人で遊ぶこともなくなっちゃって、そこからどんどん疎遠になっちゃったんだよね……。


 もしかしたら私が飽きられちゃったのかもしれないと思っておしゃれも頑張ってみたんだけど、好きになってくれるのは卓くんじゃない他の男の子ばっかり。


 私は、卓くんの事が好き。優しくて、いざという時はとっても頼りになって、すごく、すごくかっこいい卓くんが大好き……。


 でも、もう話せないのかな?もうこのまま、昔の幼馴染の関係みたいには戻れずに終わっちゃうのかな?


 今日も昼休みに友達から好きな男の子のタイプを聞かれた時、根暗な子って言うとばれちゃうかもしれないと思って、私と遊んでくれてた時の卓くんの事を思い出しながら、「う~ん……明るい人が良いかな?会話が弾む感じの」って言ったんだけど、卓くんは全くの無反応。すぐに教室から出て行ってしまった。


 また卓くんと話したいのに。卓くんと一緒に居たいのに。卓くんが好きなのに……。


 でも、彼は違うのかな? なんだか、私のほうは意地でも見ないって感じを出してるんだよね。私、卓くんに嫌われちゃったのかな? 私、卓くんに何かしちゃったのかな?


 男の子の気持ちは全く分からない。好きな男の子のことなんて、もっと分からない。あんなにずっと一緒にいたのになぁ……。なんで私、ちゃんと卓くんのこと見てなかったんだろう? なんであんな日々がずっと続くって思ってたんだろう?


 彼とはもう、話をすることすらできないかもしれない。でも私は、この気持ちを卓くんにちゃんと伝えたい。


 私は家に帰って、自分の部屋のカーテンを開けた。すぐ隣には卓くんの家がある。少し大きな声を出せば、きっと卓くんにも届くんじゃないかっていうほど近い距離。でも、いつの間にか、心はすごく遠くまで離れて行ってしまっていたようだ。


 昔はここの窓を開けて、お喋りしたりもしたのになぁ……。


 あの日々に戻れるなら、もう一度戻って卓くんと一緒に居たい。今みたいにならないように、私がなんとかしたい。


 でも、そんなことはできない。だから私は、私なりに卓くんとまた仲良くなれる方法を探す。


 自分のパソコンを開いて、最近始めたチャットアプリを起動した。


 そして迷わず、恋愛相談マスターという名前の人とのチャットを開く。この人は質問すると色々とアドバイスしてくれるからとっても助かっている。今日のお昼休みの事も、この人から「それとなく好みを彼に伝えるのもいいアピールよ」って教えてもらって、早速実行したことだった。結果は、失敗だったけど……。


『あの! 相談があるんですけど! 男の子の気持ちって、どうやったら分かりますか?』


 すぐさま返信が来る。この人の返信速度は本当に早い。常に画面とにらめっこしているみたいだ。


『そんなの、一つしかないわよ。せっかくこのチャットアプリがあるんだから、男の利用者と話してみるのが一番! 意外とそういうところから見えてくるものがあるのよ』


 なるほど、流石恋愛マスターさんだ!


『わかりました! ありがとうございます!』


 そうは言ったものの、どうしたらいいのだろう? いきなり話しかけに行くのって、変じゃないのかな?


 そんなことを考えていると、チャットの通知を知らせる音が鳴った。


 恋愛マスターさんからかな? またアドバイスもらえちゃったりするのかな?


 そう思ったけど、相手は恋愛マスターさんからではなかった。


「知らない人からだ。えーっと、高校1年生……男。年齢も近いし、この人と会話してみるのいいかも!」


 急いでチャットを開くと、なんてことない挨拶メッセージが書いてあった。


『初めまして! 女の子との会話に慣れたくてこのアプリをやってみたんですけど、もしよろしければ、僕の話し相手になってくれませんか?』


 すぐさま返事を書いた。


『初めまして! 私でよければ是非、お話しさせてください!』


 随分、引っ込み思案な子なのかもしれない。そこでふと、卓くんの顔が浮かんだけど、慌てて振り払った。


 ぼっとしてるとすぐに卓くんのことを考えちゃう。困ったなぁ……。


 でも、やっぱり好きな人の事を考えているととても幸せな気分になる。自然と口角が上がってしまう。


 と、そこでチャットのほうで返信が来た。


『ありがとうございます! それじゃあ、よろしくお願いしますね』


 こうして、私は同い年の男の子と、画面越しに会話することになった。

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