第2話 俺の日常

 しかし、何という運命のいたずらであろうか。俺と由愛は、高校でも同じクラスになってしまった。そう、高校。中学の時も知らない人のふりはしていたものの、三年間ずっと同じクラス。教室で彼女を目で追わないように気を付けるのが大変だった……。


 だから正直、今年もうんざりだ。自分の気持ちに諦めをつけたいのに、彼女が近くにいてはそうすることもできない。むしろ、日ごとに美しさを増していく彼女を見ていると、ますます好きになっていってしまう。


 だから今日も、俺は教室の自分の席で、静かに座って寝たふりを決め込んでいるのだった。


 さて、ひたすら耐えに耐えまくる学校が終わり、放課後になった。


 うん?ぼっちには絶対に一人はいるイケメン友達がいないって?


 は?ぼっちなめんな。俺にはイケメン友達どころか、友達すら一人もいねぇんだよ。


 別に寂しくはない。一人の方が落ち着けるから。


 …………………。


 さて、話を戻そう。そう、今は放課後。そして俺は、今日たまたま聞いてしまったある事柄についてとても悩んでいる。というのも、あれはお昼休み。俺がたまたまトイレへと向かった時のことだった。


 由愛は女子友達と仲良く喋っていた。彼女の席はドアの真横。だから当然、彼女たちの会話は教室を出ていこうとする俺に丸聞こえだ。


「ねぇねぇ、由愛はどんな男の人がタイプなの?今まで告白された人、全員振ってるっていうけど」


 全員振ってる。っていうことはつまり由愛にはもう、心に決めた人が……。誰だそいつは。一発ぶん殴ってやる……!


「明るくて話していて楽しい人、かな」


「えぇ~!そんなでいいの?それだったら今まで告白してきた人の中に何人かいるでしょ? 」


「いや、あの人たちは、ちょっとね……」


 由愛を取り巻く女子たちが、好きな人はいるのかと詰め寄って聞いている。ただ、俺はある一つの事柄で頭がいっぱいだった。それは……


 由愛は明るくて話し上手な人が好きだということ。


 一つ、現時点で確定していることがある。それは、俺とは真逆だということだ。もう見事に真逆。笑っちゃうほど。


 これは、諦めるしかないかなぁ……本格的に……


 俺はとぼとぼトイレに向かい、そうして昼休みは終わったのだった。



 さて、どうしようか。午後の授業中、俺はある一つの結論に至ってしまったんだ。


 どうせ疎遠になってるなら、いっそ告って振られた方が諦めがつくんじゃね?と。


 もちろん、ただで振られようとは思わない。俺なりに努力したうえで告白したいと思っている。ただ、どうしたものか……



 家に帰って、動画を見ようと思ってパソコンを開く。するとそこに一つの広告が飛び込んできた。


『人と話す事が苦手なあなたも、ここで会話の仕方を学べばきっと上手くなれる! 是非試してみてください!』


 それは、チャットアプリの宣伝だった。


 うん、これいいんじゃね? やってみよっかな?


 確かにこれなら相手の顔が見えないから、後々変な感じになったりすることもない。かといって会話するのは生身の人間だから、しっかり会話の練習にもなる。


 これだ! これしかない!



 10分後、俺はチャットアプリをダウンロードして、会員登録を終了させているのだった。

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