サイコパスをやめたくて⑪
「よし」
「灰里くん? どうかしたの?」
「黒羽、ありがとう! 黒羽のおかげで、希望が持てた気がするよ」
黒羽は表情は、まるでたくさんのハテナが頭の周りを飛び回っているかのようだ。
「う、うん? よく分からないけど、僕が役に立てたのならよかったよ」
「そろそろ日が落ちる、もう帰らないと。 ・・・母さんが心配だ」
「お母さん? ・・・うん、分かった。 今日はもう解散にしようか。 灰里くんと再会できてよかった。 助けてくれたし、仲直りもすることができたし」
もう日も落ち辺りは暗くなりかけている。 この暗さなら燃えている家はさぞ綺麗だろうな、そんな頓珍漢なことを考えていたが、それも含めて自嘲気味に笑う。
黒羽はそれを見て、再度頭にハテナを浮かべそうだったため話を続けた。
「あぁ、こちらこそだ。 黒羽は引っ越しとかしていないだろ? 互いの家も近いし、またすぐに会おう」
「あ、うん!」
「黒羽がいじめられたら、俺が助けるから。 木本たちにまた何かされたら、俺に教えてくれ」
「分かった、ありがとう。 灰里くんまたね」
そう言って黒羽は笑いながら手を振りここを去っていった。 灰里も走って家へと戻る。 覚悟が散らないうちに、やりたいことを済ませようと思っていた。
「ただいま! 母さん!」
リビングでは母がテーブルの上に顔を伏せ泣いていた。 まだ父は帰ってきていないようで部屋の電気は消えている。 明かりを点けると、それに気付いた母が灰里を見て微笑んだ。
「灰里・・・! 帰ってきてくれたのね。 心配したのよ」
「うん、心配かけてごめん。 ・・・それと、ありがとう。 今まで俺と姉さんを育てるの、大変だったでしょ」
「・・・え?」
灰里は母の背中をさすった。
「特にこの半年間。 俺がサイコパスになってからかな」
「灰里・・・」
母も子供二人がおかしいということに気付いていたようだ。 その言葉に母はよ一層の涙を流した。
「でも、もう大変な思いはさせないから。 俺が、母さんと父さんのことを守る」
「・・・いいのよ、そんなことは気にしなくても」
「そうはいかないよ。 ちょっと俺、姉さんのところへ行ってくる」
「止めた方がいいわ。 さっきのことで気が立っちゃっているから」
母の手には痣が見え、絆創膏も張られていた。 それが姉が暴れたからだとすぐに理解した。
「ただ仲直りをするだけだよ。 母さんはここにいて」
不安気な母を安心させると灰里は二階へと向かった。 今奮う勇気は先程真白を見たおかげなのかもしれない。 今度はドアを開ける前にノックをした。 まず行うべきは会話で、怒らせても仕方がない。
「・・・俺だけど」
「何? アンタ帰ってきたの? そのまま野たれ死ねば面白かったのに」
その発言にムッとするが、歯を食い縛って耐える。
「あぁ、帰ってきたよ。 この家は俺が守るって決めたから」
「何から守るの?」
「姉さんからだよ」
そう言ってドアを開ける。 姉は先程灰里が落としたアクリルケースの掃除を行っていた。 面倒臭そうではあるが、ケロッとしているのはやはりサイコパスだからなのだろう。
ただ飼っていた動物たちは全てゴミのように処分されていた。
「私から守るって何を?」
「だから家をだよ」
「家を守るって、私が何かしたわけ?」
「姉さんはおかしいから。 姉さんが変なことをし出したら、俺が全力で止めるということだ」
「弟のくせに、そんなことができると思ってんの?」
「確かに俺は姉さんよりも年下だ。 だけど俺は男、姉さんよりも力は強い」
「力尽くで止める気?」
「そうだよ。 これ以上、母さんと父さんには迷惑をかけたくないから」
「・・・」
「もう姉さんの好き勝手にはさせないよ」
「・・・ふん」
姉は悔しそうにそっぽを向いた。 姉も異常者だと思っていたが、本当はサイコパスもどきなのかもしれない。 もしこれが真白だったとしたら、どうなるだろうか。
そのようなことを考えたが意味がないと思い頭を振った。
―――そう、真白なら。
―――こんな簡単に済むわけがない。
灰里は翌日のことを考え、もう一つの覚悟を決めていた。
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