サイコパスをやめたくて⑩
二人は路上を歩きながら話していた。 まだ火が消えていないのか騒がしいが、灰里はもうどうでもよくなっている。
「さっきの子、変わった子だったね。 灰里くんと同じ学校なの?」
「あー、うん、そうだよ。 全然詳しくは知らないけど」
「じゃあどうやって知り合ったの?」
黒羽にそれを聞かれると何となくバツが悪いが、誤魔化す必要もないため正直に答えた。
「・・・アイツがいじめられているところに、偶然遭遇したんだ」
「そうなんだ・・・。 助けてあげた?」
助けた時のことを思い出しながら首を捻る。
「どうだろう? まぁ、結果的には?」
「やっぱり灰里くんは凄いね。 勇気がある」
「アイツさ、俺よりもサイコパスなんだよ」
「え、そうなの!? 変わった子だとは思ったけど、サイコパスだったんだ・・・。 サイコパスだからいじめられていたの?」
自分の家が燃え薄ら笑いを浮かべるのは傍から見ても異常だ。 それは黒羽にも当然伝わっていた。
「いや、詳しい理由までは分からない。 だけどアイツ、わざといじめられているんだよ」
「もしかして、さっきあの子が言っていた、仕返しをしたいがために・・・?」
「そうそう」
「へぇ・・・。 本当に変わった子だ」
興味津々で黒羽は話を聞いている。
「黒羽は、サイコパスを見ても怖くないんだ?」
「優しい灰里くんをずっと見てきたからね」
話していると前から車が来た。 今二人がいるのは細い道で、通るにはギリギリだ。 それでも灰里は“大丈夫だろう”と思い特に避けはしなかった。
先程本物の命の危険を感じ、感覚がおかしくなっていたのだ。 黒羽からしたら灰里の謎思考なんて知るはずもなく、腕を引っ張り道路脇へと逸らした。
「うわッ!」
「ちょっと!」
車は何もなかったように通り過ぎていく。 珍しく怒り口調の黒羽にも驚いていた。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ! 灰里くん死にたいの!?」
「そんなわけないじゃん」
「じゃあどうして車を避けなかったのさ!」
「今通った車、ギリギリ轢かれない位置にいたよ?」
「それでも危ないよ・・・。 僕もだけど、運転している人も冷や冷やしただろうね」
「いちいち細かいことで怯えなくてもいいと思うけどな」
「・・・灰里くんは怖くなかったの?」
「全然怖くなかったよ? ・・・あれ、思えば、最近怖さを感じたことってあまりないな。 さっき会ったあのサイコパスの奴、アイツを初めて見た時だけ少し恐怖を感じたくらいで」
「灰里くん、恐怖を感じないのか・・・。 確かに火の中に、躊躇わずに入っていったもんね」
少し表情を歪める黒羽を見て、改めて昔の記憶が蘇る。 自分がサイコパスであると分かり避けられたことが何度もあった。 それが知らない誰かや特に仲のよくないクラスメイトなら何も思わない。
だが黒羽にそう思われるのは嫌だった。
「恐怖を感じない人って、怖い? 変わってる?」
「ううん、怖くないよ。 でも変わっているとは思う。 普通の人には、滅多にできないことだから」
「・・・」
「僕にとって怖さを感じないって、カッコ良くて憧れるな。 僕も灰里くんみたいに、頼られる人になりたい。 ヒーローみたいになりたいって思うから」
―――もしかして、俺・・・。
―――いや、俺はこのままでもいいのかもしれない。
―――確かに変に思われて避けられるのはもうごめんだ。
―――でも恐怖を感じないのは、俺がソシオパスだからっていう事実もある。
「灰里くん? おーい」
―――つまり、弱点だと思っていたこの恐怖心のなさを、プラスに捉えることができれば・・・。
―――長所として生かせば、俺はいけるのかもしれない。
黒羽が呼んでいるが耳から抜けていく。 黒羽が思案する灰里を見て首を捻っている横で、灰里はある覚悟を決めていた。
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