サイコパスをやめたくて⑦
―――俺はもう、普通の人?
―――本当に?
考えてみても実感が湧かない。 冷静になるまで歩いていると、少し道の先でまたいじめを発見した。
―――よくいじめを見るな。
―――先生たちは気付かないもんなのか?
―――さっき目撃した時は何も思わなかったけど、今は・・・。
よく見ると彼らに見覚えがあった。
―――って、いじめられているの黒羽じゃん!
黒羽をいじめている者も見覚えがあり、前の学校で灰里をいじめていた木本たちだった。 やはり標的が黒羽に戻っている。 黒羽は相変わらず、男子たちの荷物を一人で持たされていた。
そんな黒羽に体当たりをし、よろける姿を見て笑っている。 灰里は躊躇うことなく止めに入った。
「黒羽! おい、いじめは駄目だって何度も言っているだろ!」
「灰里、くん・・・!」
「ッ、灰里・・・! お前こそ、俺たちの友情に口を出すなって何度も言っているだろ!」
黒羽も木本も灰里のことを憶えていたようだ。
「だから、お前らがしていることは友情じゃねぇって!」
「お前こそ黒羽の何なんだよ。 黒羽に一度裏切られたんだろ? それなのにどうしてコイツを庇うんだ。 お前はサイコパスになって一人ぼっちになったから、ひよって転校したくせに」
「ッ、そうか・・・」
灰里はサイコパスだと言われあることを閃いた。 黒羽の背後に回り、黒羽が背負っている鞄から一冊の教科書を取り出す。 それが黒羽のものだと分かるとドブの上まで持っていった。
「君たちは黒羽の友達なんだろ? 今から俺はこの教科書をドブの中に落とす。 友達なら、三秒数え終わる前に俺を止めてみなよ」
「なッ・・・」
「さーん、にー」
男子たちは顔を見合わせるだけで動こうともしない。
「・・・ゼロ」
数え終わると灰里はドブの中に教科書を落とした。 男子たちも驚くが、それ以上に灰里が驚いている。
「え、どうして止めなかったの? 君たち、黒羽の友達ではないじゃん」
「・・・お前、よく元友達のモノを汚せるな」
「だって俺はサイコパスなんでしょ? 普通の人がしないことを俺はする。 それだけだよ」
「ッ、やっぱり狂ってやがる。 行くぞ」
男子たちは黒羽から自分の鞄を取り上げここを去っていった。 それを見た灰里は、今まで背負っていた自分の鞄から教科書を取り出した。 それを黒羽の鞄の中に入れる。
「か、灰里くん、それ・・・」
「あ、ごめん。 勝手に汚しちゃって。 教科書が一緒でよかった。 俺のをあげるよ、まだ新品同然だから」
「そしたら灰里くんのものが」
「俺は適当に事情を話して、新しいものを買ってもらうからさ」
「・・・」
少し怯えながら俯く黒羽を見て灰里は察する。
「・・・ごめん。 こんな俺は、やっぱり怖いよね。 もう行くから」
「ま、待って!」
「ん?」
「どうして、僕を助けてくれたの?」
「だって今は違っても、黒羽が俺の親友だったっていうことには変わりがないからさ」
「でも僕、灰里くんのことを助けなかったんだよ」
「あれは仕方ないんじゃない? 俺をいじめていたのは、さっきの木本たちだったし。 怖気付くのが普通なんじゃないかな。 だから俺は気にしていない」
「ッ・・・」
そう言うと突然黒羽は泣き出した。
「おい、どうして泣くんだよ」
「ごめん・・・。 ごめんね、あの時、助けられなくて。 僕のせいで灰里くんが転校したかと思うと、凄く不安で、もう毎日心配で・・・」
「だから、俺は気にしていないって言ったじゃないか。 黒羽を恨んだりしたことがないし、怒ったこともないよ」
「ッ、灰里くん、ありがとう・・・!」
こうして二人は仲直りすることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます